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作品名:明武谷村の女房たち 作者:じゅんしろう

第21回   21
静は、一呼吸おいて、「トキさん、どうもありがとー。おめぇ様のおかげで、すべて上手くいきまへら。娘のことは、おらが親として決着を付けることにします。ただ、最後のお願いずら。これから信頼できる人に車で娘たちを迎えにやらせますから、人知れず寺から出してもらえないでしょうか。」と言った。トキはすぐに承諾した。ふきに好子たちを鳳徳寺から連れ出し、迎えに行くまで、二人を預かってもらうことを依頼した。ふきも二つ返事で承諾した。トキが静の家にそのむねを連絡すると、「ありがとー。これからおらのすることを見ていてね」と言った。トキが何か言いかけると、これは親としてのけじめだから、ときっぱりと言い、すべてが片付いたら、連絡をしますね、と言って電話を切った。
静はこれからどう動き、解決しょうとするのかは分からない。だが、トキは静流のやり方で、きっと上手くやるだろうと信じて疑わなかった。
矢張りといおうか、弥吉は午後九時前に早々と帰ってきた。
「あー、あー、負けたあー。村井大助が村長だと。貞吉さんが一番びりけつだ」
弥吉はそう言うと、ソファにいかにもがつくりしたというように、深々ともたれ天井をじつと見続けた。トキは、そうなの、と一言言っただけで、あとは、あえて黙っていた。
やがて、弥吉はぽつりと、呟いた。「明日から、秋祭りの準備に精をださねぇと、間に合わなくなるな。また、ひと仕事だ」 すぐに、弥吉の心は次の祭りへと向かったようだ。
次の日から、トキはまたいつもの生活に戻った。シゲとヨシも同様で何事もなかったかのようである。ただ、野良仕事以外に、つぎの無人販売所の開設の準備で忙しかった。こんどから、土曜日も開くことにしたからだ。弥吉も、両隣の男たちと連夜、集会所に出かけて行き、神社の祭りの準備で忙しくし立ち働いていた。神社のご神体は、当然、木曽義仲と巴御前である。八百年の歴史ある野趣に富む祭りであるから、例年、紅葉の時期と重なって、都会からの見物者が結構の人数になる。三の里では、それと前後して、平家祭りがある。こちらは、雅を演出しておっとりとした祭りで、一の里とは好対照をなしていた。
二つの祭りには、地方に出て行った子供も孫を連れて帰郷し祭りに参加する。それぞれの家族が賑わいを見せるのである。村に残った者にとって、それが楽しみでもあった。
こうして、一週間が過ぎ、二週間が過ぎた、無人販売所は順調に売り上げを伸ばしていった。それを真似て、誰かが同じような販売所を作ると、たちまち、数ヶ所できた。
トキは、いくら出来ようとも、シゲとヨシの三人で作った、この無人販売所に自信があった。さらに、三人でいろいろと試作品を作り、研究を重ねていった。
その間に、断片的ではあるが少しずつ、並吉と好子のことが耳に入ってきた。いままで、情報源はもっぱら松竹梅のお目出度トリオととめ、つめの末っ子コンビだったが、前村長と元村長の家の事情は、すでに村中に知れ渡っており、ほうぼうから耳に入った。


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