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作品名:明武谷村の女房たち 作者:じゅんしろう

第20回   20
販売所にいってみると、トキの漬物が五袋、シゲの濁酒が五瓶、ヨシの甘辛揚げが七袋も売れていた。さらに、空の瓶が一つおいてあった。つまり、一度買ってくれた人が、また来てくれたということだ。瓶を返却してくれた人には、また買ってくれたら、瓶代を引いてもらうようにしてある。野菜類も随分とさばけていた。調べてみると、これまでのようにきちんと、料金も所定の金額があった。嬉しいことに、投書箱には四通入っていた。それには、トキの漬物やヨシの甘辛揚げの美味しいことを褒め称えることが書かれていて、また来たら、是非買いたいということだった。シゲの濁酒を絶賛するものもあった。空の瓶を置いていった人のようだ。さらに、毎日とはいわないが、土曜日も開けて欲しいという要望もあった。近頃、土曜日も休みの会社が多くなってきているからだろう。トキたちは、それらを読みおえると、確かなてごたえに少なからず興奮した。ここを開いて良かった、と心から思った。これから、行楽客が見込まれる紅葉の季節だ。もっと売れるに違いないと、三人の夢は膨らんだ。しばらく、三人でこれからは商品をどのくらいの量を置くか、ということなどについて夢中で話し合った。後片付けをして家に入ったときは、すっかり暗くなっていたほどだ。だが、トキは嬉しさで、おもわず鼻歌を口ずさむのだった。それまで、選挙の投票のことで一抹の不安があったが、どこかへ飛んでいったようだ。自分で何かを掴み取った気持ちになっていて、何かあっても、来るなら来い、と思った。それを跳ね返す自信のようなものができていた。
あとは選挙の結果を待つだけだった。各地区の投票箱は、すべて二の里に運ばれ、そこで開票することになっている。貞吉候補が負ければ、これまでの経験から弥吉は早々に引き上げてくるはずだ。午後九時がその目安だった。当選すれば遅くなり、真夜中に顔を真っ赤にして酒臭い息をはきながら、帰宅ということになる。
午後八時過ぎのことだった。静から電話があった。
「トキさん。いま、投票会場に待機していた人から、知らせがありただ。大助さん、村長に当選しまへらわ」静は興奮しているのだろう、言葉が上ずっていた。
「本当に!」トキも思わず、受話器を握りなおし、歓声をあげた。
静の説明によれば、村井大助は二百四十二票、竹本市蔵二百三十三票。中山貞吉二百十七票であった。混戦状態であったが、村井大助が、わずかに勝ったということである。静に連絡してきた人によれば、二の里の人々が初めて出馬する地元候補を全面的に応援し、これまで棄権してきた人も投票して投票率を押し上げ、さらに、他の二人の候補よりも、説得力ある演説に心を動かされた人が多かったようだと、分析していたということだ。
トキは、その投票数から、叛旗をあげた自分たち女の票が、選挙を左右したことを知った。これから、何かが変わり始めると確信を持った。


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