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作品名:明武谷村の女房たち 作者:じゅんしろう

第18回   18
「静さんが、他の人に投票したことがばれたらせーどうするのだ、大変なことになるだ。おらだって、静さんほどではないが、波風が立つ心配がある」
「いや、かまわねぇ。そのときは、そのときだ。女同士が団結すればなんとかなる」
静の心は、自分が娘時代に成し遂げることができなかったことを、我が娘に託し、成就させようという気持ちでいっぱいのようだ。
それから二人は、小学生時代のときは仲良く喋ることはなかったが、それを取り返すように、膝を突き合わせひそひそと相談しあった。
静は、他の人にトキと一緒のところを見られぬようにと、先に帰っていった。トキは、その後、ひとり風呂に浸かった。風呂は檜造りの贅沢なものである。村人の知った顔は見えなかった。観光客なのだろう、三、四人が入っているだけであった。風呂のなかは、落ち着けるように明かりを落としてある。その薄暗い中で、トキは静のことを考えていた。あの村井大助と恋仲だったとは。同時に一人の男を好きあっていたことになる。だが、トキの場合は、淡い片思いでしかない。もはや遠い思い出か、と、トキは両手で顔に、バシャバシャと音をたてて何度も湯をかけ、顔を擦った。
一の里に帰ったトキは、シゲとヨシに静とのことを打ち明け、村の将来のため、村井大助を村長にさせたい、と訴えた。強制はしないが、もし賛同してくれるなら、それぞれ口の堅い信頼できる友達にお願いしてくれないか、と頼み込んだ。シゲとヨシは、はじめ相当驚いていたが、静も同様に行動しているはずだ、これは、女たちの叛乱だ、というトキの言葉に、最後は仲間に加わることを承諾してくれた。
トキはふきやギンの家にも行き、同様に訴えた。ふきとギンは二つ返事で賛同してくれた。さらに、トミの家のほかにも、かねてより村の現状に憂いをいだいている仲のよい何人かの家に行って自分の計画を打ち明けた。家に帰ったときはかなり遅かったが、弥吉も帰っていなかったので、トキの行動が発覚することはなかった。さすがのトキも、心身ともに疲れ、その夜はぐったりとして眠った。
投票日になった。同時に、無人販売所の三回目の店開きでもあった。朝から、トキたち三人は準備に忙しかったが、この仕事は楽しかった。さいわい、トキの昨日の行動は、ほかの一の里の誰にも、気づかれた様子はなかった。後は、シゲやヨシたちが実際に村井大助に投票してくれるかだが、信じきることにした。静のほうはどうなっているか分からぬが、静ならばやりそうな気がした


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