トミさん、遅くなってごめんよ、と外から大きな声がしたのである。 和尚は、ぎょっとなって、居間から外を見た。そこには、トキと、シゲ、ヨシの三人が、窓ガラスの障子越しに、庭に立ってこちらを見ていたのである。和尚が、慌てて手を離すと、トミは窓ガラスの障子に駆け寄り開けて、トキに抱きつくと、わーつ、とばかりに泣き声をあげた。どうしたの、トミさん、とシゲとヨシも大仰な身振りをし、声をあげる。 トキたち三人は、トミを抱きかかえながら、どかどかというように居間に入り込むと、ただ呆然としている和尚を取り囲んだ。 「和尚さん、トミさんに何をへらんだ。亡くなったトミさんのご亭主の七回忌の法事のこともあり、相談がてら、皆でお参りにきてみりゃ、この有様。いったいどうへらのか。きっちり、説明しておくれ」と、トキは厳しい表情をし、声を大きくして咎め口調でたたみかけた。 「いや、拙僧も、七回忌の相談に乗ろうとだんな、なんだ、親身になろうとだんな…」と、和尚はしどろもどろである。 「親身になったらせー、なんでトミさんが泣くのだ。あら、トミさんの上着の前でも少しはだけている」と、シゲは言い、「まさか、手篭めにするべとへらのではねぇずらね」とヨシもトミの身体を抱きかかえるようにして、たたみかけた。 「いゃ、拙僧は仏門に仕える身。そのような不埒なことなど、な、な、信じておくれ」と、後は哀願口調である。 「いや、そうはいかねぇだ。村の衆にこのことを知らせなけりゃいけねぇ」と、トキはさらに厳しく追求する。 「いや、止めてくれ。誤解じゃ、村の衆には黙っていてくれ」と、和尚は手を合わせるようにして懇願した。 トキはそこで、頃合いよしと、こほん、とひとつ空咳をすると、「しかし、まあ、和尚さんもこの地域で長い間仏門にお仕えになったお方、ここはひとつ、罪滅ぼしをしてくれりゃ、皆には、黙っていなくはねぇ。シゲもヨシもどうだ。トミさんも悔しいだろうが、どうずら」と、三人に同調を求めた。三人も、トキさんがそこまで言うなら、黙っていてもいいけど、と唱和した。 「罪滅ぼしって、どのようなことだ」と、和尚は恐る恐る尋ねたことだった。 そこでトキは並吉と好子のことを手短に話し、選挙の間、二人を寺に匿って欲しい、と頼んだ。これには、和尚もまたぎょっとなった。貞吉は、一の里の有力者で前村長であり、檀家の総代なのである。ばれたら、大変なことになるのは、目に見えていた。さらに、トキの話しを聞いて、女たちに嵌められたことを知ったのである。ここで、和尚は臍を曲げて反撃を試み、やはりそれは出来ぬことじゃ、と、寺に匿うことを拒否した。シゲとヨシは、では、ここで起ったことを村人に話すと言うと、わしは何もしておらん、法事のことを相談しているうちにトミさんが、亡くなられたご亭主のことを思い出されたのか、悲しそうにしたので、元気になってもらうために手を摩っただけじゃ、と、トキたちの言葉を逆手にとって居直った
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