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作品名:路地裏の猫と私 作者:じゅんしろう

最終回   71
帰り道、また犬小屋の前を通ったとき、さらに、ええっ、と驚いた。
 犬小屋の中で二匹の猫が寝ていたのである。さらに別の猫が餌を食べていた。シロといいえば、何事もないかのごとく近くで寝そべっている。おい、おい、いったいどうなっているのかと思いながら家に帰った。
 さっそく妻に報告すると、女性がシロの世話をするようになってから、そのようになったといって、すでに知っていた。小屋のひとつは猫用だという。
 「シロはずうっと、ひとりぼっちだったでしょう、寂しかったと思うわよ。だから猫であろうと、そばに集まってくれるのは大歓迎ではないかしら」
 「しかし、餌も食べていたよ。よくシロは起こらないものだなあ」
 「ああ、それはね、猫のためにも餌を与えているのですって」
 「へえ、じゃあ、いっしょに食べているのか」
 「大家族で食べる方が美味しいに決まっているでしょう」
 「うん、それはそうだ」と合点し、歯科に通う間様子を見てみようと思った。
 犬小屋のまわりに何匹もの猫が集まっているときもあれば、一匹もいないときもある。ノラ猫はそもそも気ままなものであるから、私がどう見ていようと、知ったことではない。たいていは、シロは黙って寝そべっていて、猫は猫で寝そべっている、というのが普段の構図のようである。
 しかしである。ある日、シロが小屋の中にいる猫に対して、尻尾を振りながら自分の鼻を猫の鼻にくっつけるようにしていたのを見た。あきらかにコミニュケーションをとっているようだ。
 私はなんだか嬉しくなった。シロは仲間と楽しく生活をしているのだと思った。
またある日などは、猫に寄っていき、話しかけてでもいるようなシロにたいして、無礼にもその猫は欠伸で返したりしていた。私は思わず笑ってしまったが、シロはそれに対して咎め立てるということはない。仲がいいのだろう、シロの顔も穏やかそのものである。さらに別の日には、猫の耳のあたりをしきりに舐めていた。その猫も気持ちがいいのかうっとりとして目を閉じていた。
 いまのシロはきっと幸せに違いないと思った。
 人間社会では、一人では生きてはいけない。よき仲間、よき伴侶、よき家族、それがあって初めて生活が成り立っていく。前々から犬や猫の世界はどうなっているのだろうと思っていたが、その答えのひとつを得られた思いがした。
 癌などでは落ち込んではいられないと思い、心が膨らんだような気がした。
 家に着くと玄関先にポン太がいた。私の好きなノラ猫であるが、いまだに触ったことがない。しかし、シロと猫のように声を交わすことはできないが、無言の会話ができるかもしれない。そのときは、私とポン太が理解し合えるということだろう。そうなれるときは、いつかなと思いながらポン太を見ると、ポン太は大きな欠伸をした。そして私を一瞥すると、両足を前に突き出し伸びをして、ゆうゆうと猫ハウスに入っていった。

                         


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