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作品名:路地裏の猫と私 作者:じゅんしろう

第7回   7
        W
 ノラ猫に係わってから、私にとっていくつかの新発見があった。
 ある日、真っ黒な母猫に、シャム猫模様の子猫二匹と黒模様の子猫一匹とが乳を吸っていた。どうみても同じ腹からの子猫同士とは思えない。また白と黒模様の母猫にも、明らかに違う腹から生まれたと思われる子猫たちが乳を吸っていたりしている。どうやら共同で子猫たちを育てているようだ。共同生活という連帯意識を持っているのかもしれない。相変わらずほとんどの猫たちは私になつかず、わずかにチビと命名した子猫とシャム猫模様の子猫三匹のうち一匹だけが、ようやくわずかに触れるくらいなものだ。
 あるとき、隙を見て無理やり別の子猫を抱きかかえたら、その子猫はぎゃうんと呻り、身をよじって逃げようとした。と、途端にすぐ近くにいた二匹の母猫が毛を逆立て、ぎゃあと呻り声を発しながら飛び跳ね、ものすごい形相で私に飛び掛からんばかりになったので、慌てて子猫を離した。一瞬恐怖を感じさせるくらいの、ものすごい剣幕であった。
 しかし、共同生活を営んでいるから、すべての猫同士の仲が良いかというと、そうでもないようだった。漫画のドラえもんにでてくるスネオに似た目をした猫が、いっも少し離れたところにいた。何となく寂しそうであったが、どこからか新参の子猫が一匹、二匹とやってきて、いつのまにかその三匹が一緒に仲良く寄り添うように眠っていたり、じゃれあっていたりした。私もほっとしたが、猫の世界も人間と同じような仲間はずれや差別めいたことがあるのかと複雑な気持ちになった。
 春から夏にかけて、この路地裏はノラ猫にとっては天国であったろうと思われた。
 私も食事の際の魚の残りものなど与えたりしている。いつとはなしに猫好きの中年女性があらわれ、人間が食べるような封を切ってはいない新品の餌を与えに来るようになった。さらには美しい妙齢の女性が、しばしばノラ猫の様子を見に来たりするようになった(これは私の目の保養になるわけであるが)。しかしながら、その平安も長くは続かなかった。
 以前、坂本さんがいっていたことであるが、飼い猫と違ってノラ猫の寿命は短く、なかなか長生きができないとのことだ。
 私もその現実をまのあたりに見ることになった。
 じつは、その前兆といえることはあった。子猫のなかでも少し大きめの猫が、首のあたりから血を流して死んでいたことがあったのである。雄猫が噛み殺したか、烏にやられてしまったか分からないが、坂本さんの話によると、このようなことはよくあるとのことだった。
 さらに、私が一番気に入っていたのらくろのチビがいなくなってしまったのである。たまに、一日、二日と見かけなくなることはあったが、ついに二度とあらわれることはなかった。
 突然の事故死などがあっても、別の猫があらわれたりして、この路地では十五匹前後を維持していたが、お盆過ぎのころ異変が起きた。


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