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作品名:路地裏の猫と私 作者:じゅんしろう

第55回   55
 整形外科に入院している間が大変だった。
 高齢で足など骨折して入院した場合、そのまま車椅子生活を余儀なくされるとか、痴呆になったりすることがほとんどだ、と人にさんざん脅かされていたのである。妻は、そうなったらどうしょう、義姉に負担が掛かるから私も介護に行かなければならない、とかあれこれと心配をした。
 しかし、幸いにもそうはならず、退院のあと杖をついていたが、半年もたっと杖なしで歩きまわっているという猛者なのである。
 今回はその義母に見舞われる立場になったのかと思うと、情けないやらなにをいわれるやらと複雑な気持ちになった。
 早速妻は実家にいくというので、大袈裟なことはいうなよ、と念を押した。
 私は趣味で囲碁を打つ。碁会所では高段者の王冠戦リーグに加わっていたのであるが、そのメンバーにも知らせないつもりである。いや、可能な限り人に知らせないことにしている。それが私のポリシーだと変に意気込んでいた。
 前日まで、妻はあれこれと準備や子供たちへの連絡やら忙しく立ち回っていて、慌ただしかった。もうこうなってはお手上げである。
 夜には東京にいる娘や、大阪にいる息子やら次々に電話が掛かってきた。妻が応対にでるのであるが、必ず私がでる羽目になった。決まって大丈夫なの、という言葉である。
 「おう、大丈夫だ、わざわざ来ることはないからな」と念を押す。
 じつは昨年の秋、妻と二人で東京から大阪の周辺を旅行し、小津安二郎の映画「東京物語」よろしく、会ってきたばかりなのである。 幾年月をへてこそ、懐かしさというか有難味があるのであって、わずか数か月では感慨無量というわけにはいかない。
 娘と息子は、私の元気な声を聞いて安心した、といったが、妻はこういうときは策士でるから、裏でどう工作をしているか分かったものではない。何故なら、孫に会う絶好の機会であり、よい口実ができた次第でもあるからである。妻は毎日でも孫と会いたいようである。
 


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