家までの帰り道を、なんともいわれぬ満たされた心地を味わうようにゆっくりと歩いた。 妻に今日のことをどう話して聞かせようかと考えながら歩いていたのであるが、ただそれだけのことなのに楽しい作業だった。 我が路地裏に帰りつくと、妻が玄関先に立っており、前方を見ている後ろ姿が目に入った。 「どうした?」 「あら、お帰りなさい。ねえ、見て」と妻が前を指差した。 路地裏は猫でいっぱいだったのだ。二十匹はいるだろう。 「また新しい子猫が五匹でてきたのよ」 「ほう、またか」といって新たに路地裏にデビューした子猫を探してみると、茶の縞模様が二匹と、背中が茶色で腹と足が白いのが二匹で灰色が一匹だった。 「母猫はあの猫よ」と妻は黒と茶の縞模様の親猫を指差した。そういえば、子猫たちはその猫に顔立ちが似ていた。子猫たちはさかんに走り回りじゃれあっていた。見ると、ポン太も一緒に加わって子猫に飛び掛かったりしている。 「さっきからああなのよ、まるで運動会ね」と妻がいった。 「うん、本当だ、路地裏の猫の運動会だ」 私は妻のいった猫の運動会という表現に何故か大変満足を覚えた。 「しかし、よく新しい子猫のことが識別できたな」 「ふふふ、ときどき見ているもの」 「一匹飼うか?」 「駄目よ、見るだけ」 ふと、妻との話のやり取りで、妻は子供や孫に会いたいのではないかと感じた。 「なあ、子供たちや孫に会いに行くか?」というと驚いたように私を見て、「どうして私が会いたいというのを分かったの」といった。 「うん、あんたの夫だから」 妻は嬉しそうに笑い、「いつ?」と訊くので、子供たちの都合に合わせて、と答えると、すぐに計画をたてるわ、といって、さっと家の中に入った。 こういうときの妻は素早い。たちまち日取りやらなにやら、お膳立てをしてしまうだろう、私はそれに乗るだけである。 しかし、妻にとっては楽しい作業に違いない。私の坂道探索と同じくらいだろうか、と思った。 私はひとり猫たちを見ながら考えた。 この賑わいは、冬のおと連れとともに消えてしまうのか、それとも続くのか誰にも分からない。しかしながらこの路地裏がある限り、人間の思いとは関係なく、猫たちはその営みを続けていくだろう。人間が口を挟むことはできない。 その営みを見続けることができる限り、見ていたいものだと思った。 私は夕暮れに沈みゆく路地裏に一人たたずみ、飽くこともなく無心に動き回る猫の運動会をずっと見続けていた。
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