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作品名:路地裏の猫と私 作者:じゅんしろう

第45回   45
「この表札は街でよく見かけていたけれど、ここで作られていたのですか」と私が谷藤さんにいうと、「ええ、こちらの山崎さんが従来あったものに、さらに野鳥などを彫る工夫をされたもので、職人というより工芸家ですね。小樽にやって来た観光客からも注文があるとのことですよ」といい、山崎さんに引き合わせてくれた。
 山崎さんは細面で眼鏡を掛け、小柄な五十年配の人だった。奥さんも同じように細面で眼鏡を掛け、小柄で似た者夫婦という印象である。山崎さんが彫り、奥さんが絵付けを担当しているという。
 訊くと、山崎さんは岐阜県の出身だという。奥さんは北海道の恵庭市出身で、三十年ほど前に二人で小樽にやって来て、この街が気に入って住み着いたということである。
 「小樽は海あり山ありで、どえらい住みやすいべえ。そんでずっと住むようになったわなあ」と、岐阜弁と小樽弁の混ざり合った独特のいい回しで説明してくれた。気さくで人なっつこい人物のようである。
 作業場の外にテラスがあり、街や海が一望できた。
 「眺めが良いですね」と私がいうと、「そやから、ここにずっと住んどるげ」と山崎さんは目を細め、また彫りだした。
 我々は仕事の邪魔をするわけにはいかないのでそこを辞し、荒田氏のところへ戻った。丁度スケッチを描き終えたところだったので、そのまま左の道を進むことにした。
 山側の方は石垣が多く、ところどころに趣きのある古い家が残っていた。しばらく歩いていくと、小さな車がようやく通れるような道に突き当たった。その道を下り右折すると、ほどなくバス通りにでた。
 そこから少し歩いていくと、右手に有名な地獄坂の入口に至った。昔、小樽高商の学生が校舎までの通学路の坂道を誰いうともなくいったと聞いている。傾度は10%とある。船見坂と比べて随分と緩やかであるが、距離はありそうだ。
 「さあ、行きますか」と鳴海がいい、我々はゆっくりと歩きはじめた。道路には麻雀屋や定食屋の看板が目につき、学生街らしい雰囲気が漂っていた。さらに進むと、右手にカトリック富岡教会があった。道から奥まったところに立っており、古いゴシック調の建物で、良い眺めだった。建物の前までゆきその側に立って見ると、存外大きい。真ん中は鉛筆のように尖っていててっぺんには十字架が立っている。教会としては定番の建て方なのだろう。
 「見事なものだねえ」と鳴海がいい、谷藤さんに写真を撮ってくれないかと頼んでいる。私と荒田氏も一緒に撮ってもらった。今日の鳴海は積極的である。


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