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作品名:路地裏の猫と私 作者:じゅんしろう

第44回   44
左手側は横に何本かの道路が通っており、右手側は袋小路のようになっていて、民家が密集しており家と家の間に細い通り道があるだけである。このあたりはテレビドラマで何度か映し出されているところだ。
 立ち止り振り返ってみると、港に数隻の船が停泊しているのが見えた。なるほど、船見坂とは言い得て妙だと実感した。
 それにしても急な坂である。夏などはともかく、雪のある冬は大変だね、と谷藤さんにいうと、最近はロードヒーティングのインフラが整備されているから車は通ることができるといった。
 「へえー、こんな坂道をよく通るものだね」と私がいうと、「運転にはテクニックが必要だから慣れていない人は止めた方がいいでしょう」と谷藤さんがいった。「私も冬はできるだけ運転しないようにしているのです」と荒田氏も同調するようにいう。
 我々はさらに坂道の上を目指した。
 だんだんと息が切れ額に汗が浮かんできたところで、坂道の十字路にたどりついた。左右に分かれた通りの道幅は車が楽に通れるようになっていた。十字路の上の道は、やや右寄りで道幅は少し狭い。
 「坂道から港が見えるのはここまでで、この上からは見えません」と谷藤さんの説明。 振り返ってみるとさらに港が展望でき、遠く石狩湾も一望できた。私はハンカチで額の汗を拭きながらしばし見入った。谷藤さんも鳴海も同様に汗を拭いている。が、荒田氏はさっそくスケッチブックにコンテを走らせていた。我々は荒田氏がスケッチを終えるまで待たねばならない。
 「知人がこのすぐ近くで、メリーゴーランドという面白い表札作りの工房を開いているので覗いてみませんか」と谷藤さんがいうので、我々三人は荒田氏に断って行ってみることにした。
その工房は坂道をさらに上り、てつぺんに突き当たったところを右に折れ少し歩いたところにあって、街を見下ろせるところに立っていた。白い瀟洒な家で一階が事務所、外から直接二階に通じる階段を上がると展示室と仕事場になっていた。おもに野鳥と魚を彫ったものに名前を書くというもので、木彫り表札という。沈め彫りといって、彫り方に工夫があるということで、綺麗な絵付けが施されていた。


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