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作品名:路地裏の猫と私 作者:じゅんしろう

第42回   42
        V
 二回目の坂道探索の前の日に、路地裏で面白いことがあった。
 白と黒の牛のような模様のずんぐりとした牡猫が住み着くようになったのだ。厳つい顔つきで両目の下まわりに薄い朱色の縁取りのようなものがあった。まるで歌舞伎の隈取りのようだったので、私はこの牡猫を団十郎と命名した。じつは以前より別の牡のノラ猫が路地裏にしばしば現れていたのであるが、こちらは背中一帯が茶と黒の縞模様で腹や足は白いく、なかなか愛嬌があり触ることができる。ここと別の場所にいる愛猫の間を行き来していて羨ましい身分である。別に名前はつけていなかったのであるが、ときどき団十郎と睨みあいをしている。ライバルで対抗しているわけであるから名前をつけてやらねばならない。藤十郎と命名した。
 そのどちらかが親と思われる五匹の子猫が新たに姿を見せた。猫ハウスである程度育ってから路地裏にデビューという訳である。四匹が白と黒模様で一匹だけが真っ黒である。模様から推測するに団十郎が父親と考えるのが有力であるが、ノラ猫の場合は一概に断定できず、藤十郎とどちらが父親かは分からない。もっとも分かったところで、牡猫は覚えがあるというだけで、子育てには我関せず、である。ともかくも、また路地裏は新たな子猫で賑やかになった。
 妻に子猫のことを話すと、「この間から猫ハウスで鳴き声が聞こえていたから、そのうちに現れると思っていたわ」といいさらに、「まだほかにも子猫が生まれているみたいよ」といった。
 「ほう、ほかにも生まれているのか。そうなると近々また現れるということか」
 「ええ、子猫だらけになるわね」
 私は妻の言葉に満足し、路地裏が子猫でいっぱいになり、走り回っている様を想像してにんまりとした。


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