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作品名:路地裏の猫と私 作者:じゅんしろう

第41回   41
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 私はこのごろ、市の図書館に通うことが多くなった。郷土史コーナーでの調べ物の為である。
 この春に三人で探索した坂道についての印象といったものを、私なりに書いているうちにもう少し小樽の歴史について知りたくなり、あわせて掘り下げた内容のものにしたいと考えたからである。良い意味で欲がでてきた。
 郷土史コーナーには、さまざまな人たちの労作が並べられてある。いわゆる郷土史家といわれている人々であるが、世にでるということのないじつに地味なものである。しかし、郷土愛というものがにじみ出ていて、このコーナーに来るたびに清々しい気持ちになった。そこでは明治時代のような古い写真を見つけたりして、当時の様子を知ることに興味が尽きなかった。桜の満開の時期に行った三本木坂の下りきったところは海だった。がっしりとした体格で褌姿の数人の漁師が写っていて、厳しい明治の生活がひしひしと伝わってきた。やはり、その地域のことを知ろうとした場合、いまの時代の表面的なことだけを知っていただけでは書くことはできないとあらためて思った。したがって、図書館だけでなく博物館や文学館など広範囲にわたって調べるため、いろいろなところに足を運ぶことが多くなった。大変であるが面白く、場合によっては直接郷土史家に話を聞くことが必要になるかもしれないと考えたりしている。傍から見れば地味でつまらなそうなことでも、当人が興味を持てば苦にならないものであることがよく分かった。充実した日々を送っているといえるだろう。
 そろそろ第二回目の坂道探索を敢行しなければならない。私としては、今回は有名な船見坂や地獄坂を歩いてみたいと考えている。
 ある日、碁会所で谷藤さんにそのことをいうと、すぐに賛成してくれた。自分自身は何度となくいって写真を撮ってきているが、ひとりで行くよりみんなといった場合、どのような被写体を捉えることができるか楽しみだといった。私たちはすぐに鳴海や荒田氏に連絡をとった。二人とも待っていたかのように二つ返事で、次の日曜日と決まった。どのような道中になるか、その日のことを思い巡らすだけで楽しい日々が続く訳である。  


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