T 近ごろ路地裏に異変があった。 美貌の人妻が現れ去っていった後も、残った子猫のグループは盛んに遊びまわっていたのであるが、少し早めに生まれていた子猫のグループがいなくなった。子猫も成長すれば行動半径も広くなり、二、三日見えなくなることはよくあることなので気にはしていなかったのであるが、兄弟猫五匹が忽然と消え、一週間、十日と過ぎればさすがに何かあったのかと考えざるをえない。 気を揉んでいたある日の夕方、いつもの鳥本さんが来たのでそのことをいうと、「ああ、あの子たちなら近くの空き地に引っ越したわよ」といった。 「何処の空き地?」と訊くと、すぐに案内してくれた。このあたりは道が入り組んでいて、袋小路があったりで迷路のようである。路地裏を抜け、小さな路地の交差点を右に折れすぐ左に曲がると、左手の家の裏手に雑草が覆い繁った空き地があった。その前に二人して立つと、すぐに子猫たちがやってきた。無論、目当ては鳥本さんが持ってきている餌である。いつもの、チーズやちくわを投げ与えると、わっというように飛びつき食欲旺盛なところを見せていた。 空き地は二百坪はありそうである。ここならは遊びまわるのに不自由はないだろう。新天地を求めてきた訳かと、ひとり合点したが、雨露はどうしているのかと心配になったので鳥本さんに訊いてみた。 「ああ、それは大丈夫よ。ここの家のお兄さんが猫好きで、住むところを作ってくれたのよ」といって、その家の一角を指差した。見るとそこには板が立て掛けてあり、木製で大きめの小屋があった。 「立派なものですね」というと、「うん、そうなの。それに近くに住む人も猫好きが多くて意地悪する人もいないし、ここなら安心よ」と、鳥本さんはにっこりと笑った。 餌も十分に与えてもらっているのだろう、みな丸々としていた。うん、よいところに引っ越してきた、内心喜びながら鳥本さんと別れたのであるが、我が路地裏はその分寂しくなる。また別の子猫が生まれないだろうかと、勝手なことを考えながら家に帰った。
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