U 数日後の夕方のことだった。所用があって外出の帰り、隣の空き家を通ったとき物置を覗いてみると、発砲スチロール製の箱もプラスチック製の食器ますべて無くなっていた。あたりを見回してみると、その家と隣の家の間にそれらは投げられていた。何事が起きたのかとおもいながら路地を見渡してみると、何匹かの猫が私を見ていた。何か異変があったのは明らかではあるが、何がどうなったのかということは皆目分からない。妻に訊いても分からないという。 次の日も所用があり外出していたが、帰ってみると我が家の家の近くで十匹以上の猫たちがたむろしていた。いつものように子猫たちが無邪気にじやれあっている。どうなっているのかと思ったが、ふと気がつくと、我が家の出窓の下には長方形の板が斜めに立て掛けられてある。その隙間を覗いてみると、餌の入っている食器類が置いてあって、二匹の子猫が食事の真っ最中だった。覗きこんでいる私に気がつくと、警戒して食べるのを止めたが、私が何もしないと分かったのか、また食べはじめた。夢中になって食べている子猫を見ていたら、私も空腹を覚えたので家に入った。 妻に訊くと、経緯を説明してくれた。 「先ほど坂本さんという年配の男の方が見えて、毎日猫に餌を与えてきたけれど、誰かに片づけられてしまった。ついてはうちの家の前に餌場を設けさせてくれないか、とのことだったので、あなただったら、きっと承諾すると思って、頼みをきいておきましたから」との妻の話である。もとより異存のないところであるから、うむ、とうなづきつつ、女の人ではなく男の人か、という私の問いに、あちこち猫のために餌場を設けてあるから、同好の猫好きの女の人に手伝ってもらつているということだった。 窓から路地を見てみると、先ほどの子猫たちは満腹したのか、さかんに前足で口のあたりをふいていた。 それから何日かは何事もなく過ぎたが、ある日の朝のことであった。窓の下にあった餌場がきれいに亡くなっていた。猫たちも一匹も見えない。どうしたことかと思っていたら、昼過ぎに坂本さんが我が家にやってきた。
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