W ある日、妻の買い物のお供を命ぜられて、港の側にあるスーパーマーケットやホテルなどが入っている大型複合商業ビルディングに入った。端から端まで五、六百メートルはあろうかという巨大な施設である。それも商業区域は一階から四階まで展開しているので、すべてを廻ろうとするとどのくらいの時間が掛かるのか分からない。妻との買い物のときは、必要最小限にしてくれと厳命しているのだが、守られたためしがない。女性はよほどショッピングが楽しいらしいが、ほどほどにしてもらいたいものである。それをいうと、あなたの碁と同じよ、といわれたので黙るしかない。婦人服売り場や小物売り場などをやたら歩きまわる。そのつど私が持たされる買い物袋が増えていく。これが最後といって、一階にある百円ショップに入った。驚くほどの品数の多さだった。おもに中国で安く作っているという。これでは従来の商店は太刀打ちできないはずである。 よほど疲れたので隣にあるドラックストアで栄養ドリンクを飲むことにした。いろいろとあるので何が良いのか分からない。迷っていたところへ女性店員が通りかかったので、どれが良いかと訊いてみた。「はい、これなどいかがでしょう」と、澄んだ声で親切に商品を手にとってあれこれと説明してくれた。押しつけるでもなく、おもねるでもなく、じつに心地よい気持ちになった。これだけで栄養ドリンクを飲む必要が亡くなったほどだ。あらためて店員の顔を見ると、髪は短めで、涼やかな黒目勝ちの目と引き締まった口元の、知性的ですらりとした背丈ボーイッシュな感じの女性である。とくに美人というわけではないが、心映えの良さを感じさせる女性は美しく見えるものかもしれない。 その店員にお礼をいって、化粧品売り場で係りの女性店員と話しこんでいる妻のところに行った。その店員は目がぱっちりとしていて、よく通った鼻筋と魅惑的な唇のいかにも現代的な女性である。万人が認める美人型であろう。しかし、妻との話のやり取りを聞いている限りでは、先ほどの店員のような清々しい感じは受けなかった。どちらかというと肉感的なものを感じた。無論、それはそれでおおいに魅力的ではあるけれど。 ドラックストアを出て、私が妻にそれぞれ対応してくれた店員についての比較をすると、私は化粧品売り場の女性の方が好きよ、と少し対抗するようにいった。私とボーイッシュな店員とのやり取りをしっかり見ていたようである。これ以上自説に固執すると藪蛇になりそうなので、口を閉ざすことにした。 少し小腹がすいたので、回転寿司の店に入った。じつは、私はいままで回転寿司なる店に入ったことがない。テーブルに座っていると、その傍らをベルトコンベアに乗って寿司を乗せた皿が廻ってくる。何枚か重ねたのであるが、どうにも落ち着かない。小樽美人とは一緒に食べにくるところではないな、と思い妻を促し早々に引きあげた。
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