20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:路地裏の猫と私 作者:じゅんしろう

第24回   坂道をゆく
          T
 小樽は坂の街である、とは誰もがいうところであろう。山や丘を切り崩し切り崩してできた街である、当然といえは当然であろう。
 この街に引っ越してきてから早一年が過ぎ、また春を迎えた。路地゛裏のノラ猫と係わって一年ということでもある。
 この冬、懸念したとおり、何匹かの猫が死んだ。必ずしも死因が凍死というわけではないが、猫のハウス村がなければもっと死んでいたかもしれない。さいわいにもポン太は生きのびた。冬の間はたまにしか顔を見せなかったが、路地裏から雪が消えると、例のタヌキ顔を盛んに見せるようになった。冬の前、丸々とした体型だったのがスマートになっていた。熊は厳しい冬の到来の前ひたすら食べて冬眠するように、ポン太も本能的に冬に備えてのことだったのであろうか。
 何匹かの牝猫の腹が大きく膨らみ、臨月が近いのだろう、重たそうに緩慢とした動作で路地裏を歩いていた。この路地裏に若草が生えるころ、子猫の群れで賑わうことになるのであろう。だが、昨年のことを思うと、楽しみと不安が交差する複雑な気持ちになった。
 幾日かたって坂本さんに会ったとき、その思いを伝えると、坂本さんも餌を与え続けることが良かったのかどうか、時々考えたりしますよ、と心の葛藤を打ち明けてくれた。しかしながら、もう引き返すことはできない、続けていくしかないだろうと、自分にいい聞かせるようにいった。それはそれで坂本さんのライフワークであろう。
 さて、私といえば、いまだに霧の中である。市の図書館に行って郷土史を調べたりしたが、まだ小樽に来て一年であり、北海道を転々とした身では、妻の生まれ故郷とはいえ、まだ特別に愛着を待った街というまでにはいたってはいない。何をライフワークとして取り組んでいこうかということは、焦らずに求めていくしかないだろう。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 13843