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作品名:路地裏の猫と私 作者:じゅんしろう

第21回   21
           V
 師走も押し詰まってきた。例年よりも雪は少ないが、それでもある程度は降り積もっていて、人間にとっても猫にとっても難儀なことである。 
 坂本さんが作った猫のハウス村には、多くの猫が住み着いているようである。猫には猫のネットワークがあるようだ。いままで見かけたこともない猫が路地裏を歩いているからである。気になったので一度覗いてみると、猫たちはおもいおもいに発泡スチロールのハウスに入居していた。ひとつのハウスに二、三匹くらいの猫がいる。お互いの体温で暖かいのだろう、満足気に寝ていた。猫同士の喧嘩もないようだ。安心したと同時に、なんとか冬を乗り越えてくれよと、祈る思いが湧きあがり、愛おしさが込み上げてきた。近ごろ涙腺が弱くなってきている。ものの哀れを強く感じるとともに、自分の確実に近づいてくる死えの思いが交差するのであろうか。機会があれば一度、坂本さんとあれこれ話をしてみたいと思う。
 夕方、いつも猫に餌を与えに来る中年の女性がきた。すぐに猫たちが集まってくる。ポン太はその餌のおかげかどうか、さらに丸々と太っていて女性にまとわりつくようにして食べている。冬に備えて脂肪をつけているようだ。女性の名は鳥本さんといって、毎日餌を与えに来る。おもにチーズとちくわであるが、猫にとってそれがよいのかどうか分からぬが、その善意をとやかくいうことはできない。ノラ猫は人間社会のはざ間で生きていくうえでは仕方がないことかもしれない。私も鳥本さんからちくわを貰ってポン太に与えた。ポン太は無心で食べるだけである。私はその様子を見ながら、猫になりたいものだと軽口をたたくと、鳥本さんは猫だけではなくカラスにも餌を与えているといった。
「カラスはとても賢くて、私が行くと上から見ていて、さあっと舞い降りてきて啄ばむのですよ。わたしになついているのもいて、て私で食べる子もいるのですよ」と、鳥本さんは嬉しそうにいった。
 「カラスが可愛いのですか?」と、思わず問うと、「なつけばとんな生き物でも可愛いわよ」という。カラスの被害がいろいろと取りざたされているが、それは呑み込んだ。 
 猫や犬は可愛らしいしぐさをしたりして、その可愛らしさはなんともいわれないものだが、真っ黒なカラスの不気味さを考えると、とてもではないが可愛らしさを感じることはできない。しかし、それは私の偏見かもしれない。何故なら、蛇やイグアナのような爬虫類を飼っている人もいる。蓼食う虫も好き好きというが、何に対してどう愛情を持とうと大きなお世話なのだろう。猫嫌いの人にとって、私が餌を与える姿を見たら、身の毛がよだつ思いをするのかもしれない。それもそうだなと、と思い直してひとり合点をすると、何となく可笑しくなって、鳥本さんをみると、無心に猫に声をかけながら餌を与え続けている。猫たちもさるもので、ポン太のようにまとわりつくものもいれば、少し離れたところにいて、近くまで餌を投げ与えなければ決して食べない猫もいる。猫もまた然りである。懐かないといって腹をたてることもあるまい。どう食べようと猫にとって大きなお世話、といったところだろう。とにかく、生き延びていけさえすればよい。そう考えると、どの猫も可愛く思えた。   


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