「では、阿弥陀如来様のお力により、いまだかって一人も地獄に落ちたものは無いとおっしゃいましたが、娑婆が地獄なのでありましょうか」 「地獄になるもならぬも、本人次第」 「悟りを得ることができますれば…」と、親鸞が言いかけるのを、観音菩薩は親鸞を見据えていった。 「親鸞、そなたは娑婆で悟りを得ることができたかな。そなたは妻帯し子供をもうけ、飲食も気ままであった。家庭は煩悩の巣窟なるぞ。その為、悟りを得ることなどできぬ話ではないのか。であるから、阿弥陀如来様の本願におすがりしたのであろう」 「ははあっ」 親鸞は観音菩薩の言葉に、雷に打たれたようになり、恐れおののき頭を垂れた。 やがて、観音菩薩が金紫の雲に乗って帰っていくのを見送りながら、親鸞は全身冷や汗をかくような思いであった。 数日後、親鸞は賜わった屋敷を出ることを願い出て、数多の仏と同じようにひとつの蓮華に移り、念仏の日々を送った。
某年某日某所において、男の子が生まれた。小さいときから美男子ぶりで、近隣の女たちに騒がれた。 また、何年かたった某年某日某所において、女の子が生まれた。この女の子は小さいときから御淑やかで美しく、近隣の男たちの目を集めた。 さらに何年かたった某年某日某所において、女の子が生まれた。この女の子は小さいときから活発で可愛らしく、やはり近隣の男たちの目を集めた。 この三人には、奇妙にも仏様の白毫と同じように、眉間の中央に黒子があるということだ。 その後、この三人がどのような運命に翻弄され生きたかは筆者は知らない。
完
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