驚いたのはお釈迦様。思惑が外れただけでなく、いきなり薄気味悪い三凶神が揃って並んで立ったのには、びつくりして口もきけず、目が点になって、ただただ三凶神を見つめているだけである。永い間、極楽浄土の毎日が暖かいのどかな春のような安逸な暮らしに、しらずしらずに慣れきっておられた。三凶神の出現に、あたりはにわかに北極か南極の氷の世界のようである。その寒々とした光景にお釈迦様は、固まってしまいました。 一方、三凶神。あたりは金、銀、瑠璃などの七宝の宝で、地面、池、並木、楼閣、御殿、回廊などすべてが飾られ眩いばかりだ。太閤秀吉の黄金の茶室など目ではない。おまけにどこからか妙なる調べや、珍しい鳥が美しい声でさえずっている。さらにはなんともいわれぬ良い香りが漂っているのに、これが話に聞く極楽浄土かと、うっとりとしておりましたが、すぐ目の前に白い衣をまとわれ佇まれている、ふくよかで気品あるお方が、すぐにお釈迦さまと知れた。 さっそく、宝船の件をお願いしょうと精一杯のお愛想のつもりで、三凶神同時に、にぅんやりと、まわりの色とりどりの蓮華も萎びてしもうかという、見るも凄まじい作り笑顔を振りまいたからたまらない。途端にお釈迦様は、どんと尻餅をおつきになりました。 「お釈迦様、お願いしたき儀がございます。お釈迦様…」と死に神がお釈迦さまを覗きこみ、「こりゃ駄目じゃ」と言うのを、貧乏神と疫病神が、どうした、どうしたのじゃと訊くと、「ううむ、お釈迦様は腰を抜かしていらっしゃる」と唸るように言った。 二神も驚き覗きこむと、お釈迦様はしきりに起き上がろうとするのですが、どうにも起き上がることができません。 三凶神は顔を見合わせ、どうする、と思案顔をし、このまま捨てておくこともできないので、ともかくもお釈迦様のお住まいまでお運びもうそうということになった。 お釈迦様は三凶神にまわりから抱きかかえられ、すまないねぇ、と詫びながら自分の屋敷まで連れてきてもらった。 お釈迦様の屋敷は、七宝の宝で飾られた眩いばかりの絢爛豪華な御殿である。そこでは大勢の見目麗しい仏女がかしずいていた。仏女とは若くして亡くなった清らかで美しい乙女たちである。三凶神を見て、皆、眉を顰めつつも、三凶神から奪い取るようにしてお釈迦さまを寝室に連れていった。
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