20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:寓話 三凶神 作者:じゅんしろう

第8回   8
以前、地獄の底でうごめいていた悪人のカンダタが、一匹の蜘蛛に慈悲の心を示したことを思い出され、蜘蛛の糸を降ろしたことがございます。糸に取り付いたカンダタはその下から同じように取り付いて上ってくる亡者たちを追い払おうと悪心を起こしたばっかりに、またもとの地獄に真っ逆さまに落ちてしまうということがございました。同じ手で、三凶神が糸に取り付き上ってくる最中に欲心を起こし仲間割れを起こさせ、途中で糸が切れて下界に逆戻りをさせて反省させようとの魂胆である。また以前、孫悟空が天界で大暴れをして天帝に泣きつかれ、孫悟空を懲らしめて三蔵法師の天竺行きのお供をさせ、見事成就させたという実績がございました。このくらいは朝飯前とお考えになったのでありましょう。
 また仏殿では、戦いは多勢に無勢でだんだん三凶神側は劣勢になってきた。七福神の方々は、みなさん栄養満点で色艶も良く体力がある。それに引き換え、三凶神は栄養失調のような覇気のない蒼白い顔で、がりがりのあばら骨が浮き出ているような体型だ。宝船に乗りたさの一途で、よく戦ってきたものである。
 そこへ蜘蛛の糸が天から垂れ下がってきて、三凶神もひと目でそれがお釈迦様のなされたことと見抜いた。
 「おうみんな、渡りに船とはこのことだ。ここはひとつ、この糸を伝わってお釈迦様に、宝船に乗ることの仲介をお願い申し上げようではないか」との貧乏神の提案に疫病神も死に神も異存はありません。すぐに三凶神はその糸に取り付き、するすると上りはじめた。疫病神はそのとき、覚えていろよ、との捨て台詞で悪態をつく始末。
 三凶神はカンダタのように人間ではありません。いやしくも神様でありますから、神通力を発揮しまして目にもとまらぬ速さで上っていった。 お釈迦様は、途中で仲間割れをして糸が切れるだろうと、たかくくりをしていたのですが、そうはなりません。なぜなら、三凶神は一緒に七福神と戦った仲間である。いわば戦友だ。熱い友情が芽生え、団結してお互いを励ましあいながら上っていった。さしもの西方十万億土彼方の極楽浄土に昼前には着いてしまいました。
 丁度そのとき、お釈迦様はもう糸が切れたころだろうと池を覗いた途端、三凶神がつぎつきと池から飛び出してきて、お釈迦様の目の前に現れたのである。
 


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 3406