組み伏せられ、手足をばたばたさせている疫病神危うしと、貧乏神も我を忘れて果敢にも毘沙門天にも飛び掛かっていった。これを見て、大黒天や布袋も参戦した。弁財天は味方を鼓舞するため、琵琶をさかんに奏でだした。ここにいたって弁財天の色香に惑わされていた死に神も我にかえり、女の正体見届けたり、と唸るように言うや、戦いの中に加わっていった。こうなると行き掛かりじょう、福禄寿、寿老人、恵比寿さんも戦いの中に加わわざるをえなくなった。 大黒天が打ち出の小槌ではっしと打ち込めば、貧乏神も心得たりと、ひょろひょろとしながらも危うくかわした。途端に打ち出の小槌から小判がざっくざっくと飛びだした。人間ならばそれに気をとられるところですが、なにしろ貧乏神ですから興味なしと目もくれません。死に神は福禄寿や寿老人の知恵と教養がぎつしりと詰まっていわんばかりの長い頭に噛みつこうとしますが、そうはさせまいと二神は杖や団扇でおたおたしながらも防ぎます。反撃に転じて、へっぴり腰で杖を振り上げ打ち込みますが、杖に結んだ巻物が外れてばらばらと広がってしまい、あわてて拾う有り様です。恵比寿さんも疫病神を釣竿で釣り上げようといたしますが、布袋の大きな袋に引っ掛けたり、弁財天の裾に引っ掛かり捲り上げそうになって、きゃつ、何すんのよ助平、と叫ばれてしまうのが関の山である。 三凶神は数では劣勢なれどそこは神様、強敵毘沙門天相手に従く剛を制す、で善戦した。かくて仏殿の中はくんずほぐれつの大騒動、戦いはいつ果てることなく続いた。 七福神が優勢のときは光り輝くばかり、三凶神が優勢のときは暗くどんよりと陰気が漂った。もとより人には見えぬこと、急に仏殿の中が明るくなったり暗くなったり、なにがなんだかさつぱり分かりません。ただただ、どうした、どうしたのと善男善女はどよめくばかりである。 さて、こちらは極楽浄土。 お釈迦さまが朝の散歩をなされておられ、なにやら下界が騒がしいと、赤、青、黄、白の色も美しい光を放っている蓮華の清浄なる池から覗いてみますと、くだんの大騒ぎ。そこはさすがにお釈迦様、瞬時に事の次第を理解され、三凶神を懲らしめようと、丁度蓮華にいた蜘蛛をお取りあげ、下界にすうっと蜘蛛の糸を降ろされた。
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