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作品名:寓話 三凶神 作者:じゅんしろう

第6回   6
「これだから日本語は紛らわしい。おい死に神も何とか言えよ」と、貧乏神がいままで一言も発しない死に神を小突いた。
 死に神は先ほどから弁財天の妖艶な美しさに心を奪われていた。これまで人間のどのような絶世の美女にも、興味や関心を示さなかったが、おなじ神様同士なら話は別のようである。
 弁財天はその様子を見て色気でていよく追い払おうと死に神に、にっこりと微笑み流し目を送った。
 すると死に神は初めての体験にどぎまぎして蒼白い顔をぽっと赤く染める始末。
 「馬鹿、死に神が顔を赤らめてどうするのだよ」と貧乏神が呆れたしなめるが、それでもぽっとなったままだった。
 「我らも子供の使いでござらねば、ここはどうしても一度乗せていただく」と、疫病神は切れてしまって無理やり宝船に乗り込もうとするのを、「それは相成らぬ。力ずくというのであればお相手つかまつろう」と毘沙門天は疫病神の前にすつくと立ち塞がった。
 なにしろ名将上杉謙信公が崇めたたてまつった軍神毘沙門天ですから、大変な偉丈夫である。疫病の肩に軽く手を押し当てただけで、仏殿の隅に吹っ飛ばしてしまった。
 「おのれ毘沙門天め。もとはといえば唐、天竺あたりでうろうろとしていた分際で許しがたい」と、疫病神は完全に切れてしまって、袖をたくし上げ拳を掲げて、無謀にも毘沙門天に飛び掛かっていった。
「うぬ、神に国内も国外もあるものか」と毘沙門天も侮辱されたのに腹を立て、たちまち疫病神を組み伏せた。
 七福神のうち、日本産は恵比寿産だけでほかは唐、天竺出身の神様であります。三凶神は純粋な地域密着型の日本の神様ですから、腹立ちまぎれに悪態をついたという次第である。


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