途端に仏殿の中が薄暗くなってしまった。 大黒点が、「やや、どなたかと思えば、貧乏神、疫病神、死に神のお歴々ではござらぬか、どうなされたかな?」と、いぶかしみながら尋ねた。 「いやあ、大黒天をはじめ、七福神のお歴々、正月早々ご苦労さまでございます。弁財天も相変わらずお美しい。じつはひとつ頼みごとがありましてやってまいりました」と、貧乏神は揉み手をしながら切りだした。 「ほう、何でしょう」と、恵比寿が内心舌打ちしつつも面に現さず、ふくよかな顔をにこにこと満面笑みを浮かべながら尋ねた。 「じつをもうさば我ら拙神は、一度宝船に乗ってみたいものだと思いましてな、どうでござろうか、一度こっきりでよろしいから我らだけで乗せてもらえぬでござろうか」と、疫病神が、頼み事であるから、ついかしこまって武家言葉をつかって答えた。 「それは宜しくありませぬな。庶民にとっては凶となりましょう」と、布袋が半裸で露出している肥えた腹をさすりながら、やはり内心迷惑なのをおくびにも出さず、言葉は丁重だが即座にきっぱりと断った。 「いや、そうではありましょうが、御無理は承知の上、ほかの神々の方々はどうでござろうか」と、貧乏神が毘沙門天など誰かまわずにぺこぺこと頭を下げて頼みこんだ。 しかし、七福神全員にべもなく首を横に振る。 「では百歩譲って、皆さまが乗られたとき、我らは片隅で結構でござるから、いかかでありましょうか」と、疫病神は必死の形相でさらに頼み込んだ。 「それもご無体な、駄目なものは駄目であります」と、弁財天は眉を顰める。 「そこを何とか、目出度い元旦でありますから、我らの切なる願いでございます。お考え直されてはいただけないでしょうか。」と、貧乏神が細い目をしょぼつかせながら、憐みに訴えかけるように言った。 七福神一同、いや、結構です、と声を揃えて言い、もう取り合わんとばかりに横を向いた。 「結構とは、よろしいということですかな」と、疫病神は無理やり言葉尻を捉えようとする。 「厭だということですわよ、決まっているでしょう」と、弁財天がぷりぷりして突き放すように言い放った。
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