浅草寺は老若男女の参詣客で、押すな押すなのぎっしり満員で溢れんばかりである。 「いやあ、賑やかだのう。正月はこうでなくてはいけないね。おっ、この旦那懐具合が暖かそうだぜ」と、貧乏がみるからに大店の商家らしい、恰幅の良い中年の男に抱きつこうとするのを、「おい貧乏神、元旦から商売っ気をだすなよ」と疫病神がたしなめ、死に神も晴れ着を着飾った娘に抱きつこうとしたので、「おおい、こら。死に神も綺麗な娘さんにちょつかいをだすなよ」と忙しい。 「美人薄命と言うではないか、ひやっ、ひやっ、ひやっ」と、死に神もはしゃぎ言い返す。 と、こうして酒の酔いもたっぷりと残っておりますので、参詣客を冷やかしながら境内を進んで行く。無論、そこは痩せても枯れても神様でございますから、人々の間をすうーっとなんなく進んで行く。ただ、脇を通り抜けられた皆様は、なにやらぞくぞくと寒気がきたように身を震わせますが。 寺の仏殿では除夜の鐘の音から、休みなくあちらこちらの神社仏閣を掛け持ちしておりました七福神が、折よく一段落したのか、肴は恵比寿さんが釣り上げた鯛の尾頭付きで、一杯よろしくやっておられます。こちらの宴は三凶神とはずいぶん違いまして、ぱっと華やかで明るい。 誰それに金儲けさせてやったとか、家内安全夫婦円満で長生きをさせてやっているとか、いや、わしこそ、誰それに学問を授けて出世をさせてやったとか、それぞれ自慢をする。それを受けて、美しい弁財天が、得意の音曲で、若い男女の心のうちに恋の唄を奏で、恋愛結婚を何組も遂げさせてあげましたわ、と言ってほかの男性神たちを艶っぽい目でねめまわした。 とたんに、いや目出度い、その調子でたくさんの男女を結び合わせれば、出性率が上がること間違いなしでこの国も安泰だ、結構結構と、やんや、やんやの喝采をあげ、唯一の女神のせいか、男性神はおべんちゃらを競うようにして言い合い座はいやがうえにも盛り上がった。 では恋の唄をひとつ披露しちゃおうかしら、と気を良くした弁財天が琵琶を奏でようとしますと、そこえ三凶神がやってまいりました。
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