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作品名:寓話 三凶神 作者:じゅんしろう

第2回   2
貧乏神がすこし口をもごもごさせていたのを、ひとつ溜息をつき、「なあ、疫病神よ。今年ももう終わりだが、おらは、このところ虚しくなってしまうことしきりだ。人様に嫌われても、情け容赦なくすってんてんにしてやるからのう。何か一度くらいは人様に喜ばれてみたいものだとこの頃思うのだよ」と、小さな目をしょぼつかせながら言った。
 「貧乏神、お前もそうか。おいらもここんところ同じような心持ちだ。毎日美食三昧なんて奴は、軽く糖尿病あたりを喰らわしてやるのはなんともないが、コロリなんかを流行らせた場合は、悪人なんかはよいとして善人でもみさかいなくばたばたと倒れちまうからのう、ただ、大忙しでてんてこ舞いになるだけだ。なあ、死に神はどう思う?」と、細い目を死に神に向けた。
 死に神はひとつ首をひねらせると、深く暗い不気味な目で二神をねめまわすようにして、「お前たちがそういうことを言えば、わしの仕事はあがったりだ。貧乏苦で生きているのが嫌になったとか、病気でうんと弱っちまっている、そんなのをわしに廻してくれなければ、とりつくことができないではないか」と、すこし口を尖らせい言った。
 「ではなにか、今の仕事が気に入っているというのかい」と、貧乏神がさらに細い目をしょぼつかせて言うと、「そうは言わぬが、そうさのう、たまには人様に喜ばれるようなことをしてみたいと思わぬでもないが。仕事を真面目に無事終えた後、いつもその親類縁者に泣かれるだけだからのう。そうだなあ、一度くらいは七福神のように宝船に乗って華やかに繰り出したいと思うこともある。いつも陰気にしているのも気が滅入るからのう」
 「だろう、神様に貴賎は無いとはいえ、やはり考えてしまうよ。しかし、なんだなあ、その宝船に乗るというのは豪気で良いなあ。ここはひとつ七福神に掛け合ってみようではないか。どうだろう疫病神?」
 「おいらも賛成だ。宝船に乗っておいら達も一世一代の威勢の良い思いを味わってみようではないか。さすがに死に神だ良いことを言う」と、疫病神に褒められたものだから、つい死に神がにやりと笑うのを、「よせやい、お前が笑うと気持ちが悪くなって鳥肌がたつぜ、黙って暗い顔でいろよ」と、貧乏神が肩をすぼめて言った。


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