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作品名:寓話 三凶神 作者:じゅんしろう

最終回   15
 娑婆に帰りついた途端、あっというようなことが起きた。半分以上の老若男女の人々が雲を掻き消すように消えて居なくなってしまったのである。これらは、本来とっくに亡くなっていなければならない人々だった。それは人間だけではなくすべての生き物に及んだ。さらに残った人々や生き物も何事も無かったかの如く振舞っている。すべては本来あるべきもとの状態に戻ったのだ。
 三凶神は一度顔を見合わせると、また、以前のような見るも凄まじい不気味な笑顔を交わし合うと、すぐに散り散りになった。
 
 数年たった大晦日の夜のことである。例のお化け屋敷で、三凶神が濁酒を呑みながら年越しをしていた。例によって、ぼそぼそとした会話である。
 「この間、とうとう我らを祭った神社を不吉だといって、お上が取り壊しおったな」と貧乏神が不満げに言った。
 「いいではないか。どうせ誰も信心せず、あれからひとりも拝みに来なかったのだから」と疫病神。
 「まあ、いつものことだが人間は喉もと過ぎればなんとやらだ。医者や坊主も忙しそうだし、結構なことではないか」と死に神が言うのを、「そうそう、我らの働きでかの者たちは潤っている」と疫病神が相槌を打つ。
「そうだな、七福神もまた繁盛しているようだし、目出度し目出度しじゃ」と、貧乏神が膝を揺すりながら、幾分皮肉ぽっく言うと、すかさず、「これから七福神のところに乗り込むか。そしてまた極楽浄土へ行くのも悪くないな」と疫病神が嘯いた。すると、「よせよ。我らにとって、この娑婆が極楽浄土じゃ」と死に神が咎め、にやりと不気味に笑い二神をねめまわすと、貧乏神、疫病神も負けず劣らず不気味に笑い、お互いを見まわし合いながら、ふっ、ふっ、ふっ……、はっ、はっ、はっ……と、世にも恐ろしげな笑い声を発した。それは闇夜を地鳴りのように響き渡り、大晦日のだいぶ前から避難していた獣や猛禽類は、更に遠くへと一斉に飛び立ち逃げ出して行った。

                                                    完


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