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作品名:寓話 三凶神 作者:じゅんしろう

第14回   14
これを見て三凶神、我らは必要とされている、と大喜びである。さっそくお釈迦様に娑婆に帰ることをお頼み申そうと、話は決まった。じつは娑婆と極楽浄土の間は、気の遠くなるくらい離れているので、蜘蛛の糸など橋渡しのものが無いと帰れないのである。
 御殿に戻ると、すぐ愛燐尼にお釈迦様との面会を申し込んだ。
 お釈迦様は宝船の件かと憂鬱になったが、逃げるわけにもいかないので覚悟を決め、接客の間に通すようにと、言うしかなかった。
 接客の間に来た三凶神は作り笑いでぺこぺこしている。だが、この前お釈迦様の腰を抜かせたような、見るも凄まじいものではない。なんとなく愛嬌さえ感じさせるものだった。お釈迦様は内心、おやっ、と思ったが、無論顔にはださない。
 「お釈迦様。我ら今日まで、大変お世話になりましたが勝手ながらすぐにでも娑婆に帰りたく、お願いしに参りました」と、死に神が代表して言った。
 「おお、それは上々」とお釈迦様、余計なことは一切言わない。お釈迦様にとっても渡りに船である。さっそく一同、蓮華の池にやってきた。
 お釈迦様は蓮華にいる中で一番大きな蜘蛛をお取り上げになり、確実に娑婆に帰りつくように途中で切れる心配のない、太く丈夫そうな糸をお降ろしになった。じつは極楽浄土から娑婆に行く場合、途中で糸が切れたなら今度は逆に極楽浄土に舞い戻ってくるからである。
 「お世話になりお名残り惜しゅうございますがこれでお暇申し上げます」と三凶神一同唱和する。「さらばでござる」と一礼するや、つぎつぎに糸に取り付き降りていった。三凶神、もはや心ここに在らず、である。
 お釈迦様は見送った後、ひとり取り残されたような気になった。何かもう少し話を交わせばよかったか、という思いにも囚われた。
 しばらく佇まれていたが、やがてかぶりを振り、阿弥陀如来はお見通しか、とつぶやき池を後にした。
 三凶神、下界に降りていきながら天にも昇る気持だった。存在してこのかた、このような喜びに満ちたことは無い。我らは必要とされている、と思った。いや、我らば居なければ娑婆は成り立たぬ、とも思った。愉快、愉快、と皆思いながら降っていった。無論、神通力を発揮して、目にもとまらぬ速さである。気分は天孫降臨ならぬ三凶神降臨だ。


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