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作品名:寓話 三凶神 作者:じゅんしろう

第12回   12
 阿弥陀如来は美しい。男性仏か女性仏か分からない。中性ではないのかと思えるようななんとも不思議な美しさである。発する声音も優しく美しい。言葉を掛けられた方はまるで音曲を聴いているかのような錯覚を覚える。
 「釈迦如来様、かの者たちをいかがあそばれるおつもりです」と言い、口元に笑みを浮かべた。三凶神のことは極楽浄土中に知れ渡っており、無論、阿弥陀如来はお見通しである。
 「ううつ、じつは困っておる。宝船に乗せるわけにはいかぬし、といって醜態を見られ助けられているから無碍にも断れぬし、考えあぐねているところでな」と、本当に困っているのか、額に手を当ててうな垂れた。
 お釈迦様は、極楽浄土ではいわば居候の身である。罰が悪いのか消え入りそうな声である。阿弥陀如来は生まれながらにして大変偉い仏様であったが、お釈迦様は人間界出身であるので、極々稀に人間臭さがでるのであろうか。
 「いずれにしても、間もなくのことでありましょうから」と、謎めいた言葉を残して阿弥陀如来は金紫の雲に乗って帰って行った。
 その後姿を見送りながら、「どうも阿弥陀如来は苦手だなあ、私もそろそろここをお暇しようかいのう」と、お釈迦様はぶつぶつ呟いた。
三凶神は帰り道、例の蓮華の池から、娑婆はどうなっているか様子を見てみることにした。
 三凶神が雁首揃えて覗き見ると、同時にあっと声をあげた。
 日本国中、人々で溢れかえっていたのである。さらにここに来て六、七日と思っていたのに、百年はとうに過ぎているようだ。三凶神は顔を見合わせ、なお詳しく様子を見る為、身を乗り出し顔を池の水面に触れんばかりにした。
 江戸の町は、百万人が住んでいるといわれていたが、今ははるかに多く倍を超える人数になっているようだ。それも年寄りがやたら多く、皆達者で闊歩している。
 じつはこういう訳である。三凶神が極楽浄土に行った為、皆、豊かになり病気にもならず、おまけに死ななくなったのである。


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