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作品名:寓話 三凶神 作者:じゅんしろう

第10回   10
 三凶神が、これからどうすると、ひそひそと相談していると、一人のあどけなさが残る仏女が近づいてきて、長旅で疲れたことだろうから部屋で休んでいてくれとのお釈迦様の言いつけを伝え、別の部屋に案内してくれた。その部屋も七宝で飾られ眩いばかりである。その仏女の名は、愛燐尼といい、三凶神の世話係を命ぜられたとのことだ。愛燐尼はほかの仏女と違い、眉を顰めるということもなく、何くれとなく気をつかってくれて親切だった。運んできてくれたお茶は仏茶といい、娑婆のお釈迦様の命日に飲む甘茶と違い、たいそう美味しいものだった。疫病神などは、さすがは極楽浄土、甘露甘露と、美味しそうに何杯もおかわりを求め飲み干すのだった。
 「で、これからどうする?」と、貧乏神が膝を揺すりながら心細げに言った。あまりの豪華絢爛たる住まいに、いささか恐れを抱きはじめたようである。娑婆での、どのような大金持ちの豪華さにはどうということもないが、この極楽浄土の荘厳な華やかさには、この身の分を超えていると感じはじめているようだ。
 「どうするといったって、お釈迦様に宝船の件をお願い申しあげるまで、どうすることもできまい。うっ、これは旨い」と、疫病神がだされた果実をほう張りながら言った。娑婆では見たこともないいろいろな果実が、素晴らしい彫刻がほどこされている銀の皿に盛られていた。死に神がそれを横目に、「まずはお釈迦様の回復を待ってからのことじゃ、しばらくここで厄介になろう」と言い、果実に手を伸ばした。 こうして三凶神は極楽浄土に留まることになった。
 その日から高級料亭でだされるような美味しいご馳走に舌鼓を打ち、濁酒とは大違いの今まで味わったことがない美酒に酔いしれ、毎夜宴を繰り広げた。ここではないものは無く、望めばどのようなものでもいくらでもね娑婆では絶対に味わうことのできない珍味や飲み物はおもいのままであった。無論、三凶神は娑婆ではこのようなことはしないし、しようと露ほども思ったことが無いが、どうもここは勝手が違い、娑婆の人間のように欲がでて飲み食いをした。宴の様子も娑婆でのようなぼそぼそとした会話ではなく、放歌高吟の大騒ぎである。
 その間、お釈迦様は三凶神の前に姿を見せることは無かった。三凶神のほうも、宝船の件はすっかり忘れたかのようだ。昼間は、七宝で飾られたほうぼうの御殿や美しい野原を見たり散策したりして過ごし、夜は愛燐尼のお酌で美酒に酔いしれた。


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