ずうっと昔、ある大晦日の夜のことである。 江戸は西の郊外のはずれのそのはずれ、いまにも幽霊妖怪の類がでてきそうな大きくて古い朽ちかけた屋敷があった。 崩れかけた塀の間からは、鬱蒼と繁った木々が見え、昼なを暗かった。夜はなをさらのことで、近くのものも誰も近づかなかった。 だが、ここでは人間には見えないが、貧乏神、疫病神、死に神たちが濁酒の大きな徳利を真ん中に、車座になって酒盛りをしている真っ最中なのであった。仕事柄ほかの神様には相手になってもらえず、同類相憐れむで、いっのころからか寄り合って、年越しをするようになっていたのである。 今年は早々と仕事を切り上げ、宵のうちから呑みだし、かなりお酒を過ごしているようだ。 もっともわれわれ人間のように高尚放歌の大騒ぎをするのでもなく、ぼそぼそと問わず語りで、世間話をする間にさりげなく自分の仕事の話を織り込む。仕舞いには、どなた様もご存じの高名なだれそれはわしの仕事だとか、ひとしきり自慢話をして、例年お開きになるのであるが、いつもよりお酒を多く過ごしたため、すこし様子が違うようだ。
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