★ 外は、薄暗く肌寒い。 桜には、厚着するように言ったが、ゆかたの上にカーディガンしかはおっていない。 「ここに来たら、やっぱこれをみて帰らなきゃ」 「日の出なんてどこも同じじゃない?」 「ここの日の出は、綺麗なんだぜ、本当に」 「期待はずれだったら、怒るから」 「へいへい」 その時、水平線上から明かりが漏れた。 その明かりは、一気に両端に広がり、そして、太陽が出てきたのだ。 「わぁー」 桜は、幼い子供みたいに歓喜をあげた。 「な、綺麗だろ?」 「うん・・・」 喜びながらも、じっと喜んでみていた。 しかし、彼女の面影には、どこか遠い昔を悲しむ顔をしていたように見えたのは、気のせいだろうか・・・
☆ 暗い空と、黒い海の間から明るい光がみえた。 この世の始まりのような光である。 横には、眩しそうに日の出を見る高志がいる。 ふと、私も眩しそうに瞳を細めて言ってみた。
「新しくスタートしてみるかな?」
「え?」 「なんでもない」 高志は、不思議そうな顔をして、また朝日のほうに見入った。 そう、過去のことは忘れて、今出来ることからまた再スタートしよう。
そう決めた。
★ 朝飯を食べてから、俺たちは、特によるところもないので、帰ることにした。 来るときとは、違う気持ちになりながら、俺は列車に揺られながら桜を見ていた。
「あら、二人とも、帰りが早いのね?」 母さんは、二人同時に帰ってきたのを見てこう言った。 ヤバイ・・・ 別々に帰ってくるんだった・・・。 とっさに、俺は嘘をついた。 「いや・・・そこで偶然遇ったんだよ」 「そう。でも、あんた何か嘘ついてない?」 「ついてないよ・・・」 「あんた、嘘つくときは鼻の上にしわを作るからね」 「え!!」 「やっぱり何か嘘ついてない?」 「何だよ・・・嘘って・・・」 「二人でどこかに出かけていたとか・・・」 図星だった・・・女性の勘はやはり鋭い・・ 「なんてね、いくら幼馴染でもそれは無いか。それじゃ〜小説みたいよね」 「ハハ・・・ハハハ、そうだよまったく」 俺はすごく冷や汗を掻いていた。 なのに桜は、
「ふ〜ん、嘘つくと鼻の上にしわね・・・覚えておこう」
俺は、たじたじしながら桜を見た。 すると、桜は苦笑いした。 「お前、場慣れしてるだろ・・・」 「うん、昔朝帰りした」 彼女は、はっきりと言った。 「え!!」
「う・そ・よ」
笑いながら、すばやく階段を上がっていった。
「ほんとうか…?」
☆ 今は、高志の部屋の窓から外を眺めている。 近所の子供たちが賑やかに走り回っている。 昨晩高志に告白した。 また傷つくかもしれないというリスクを背負って。 でも、嫌な気分じゃない。 それは、高志だからだ。 「そうだ…」
私は、ふとした事を思い出した・・・ 今日は…彼の命日だった…。
私は、鞄を持って急いで階段を降りた。そこに高志がいた。 「どうしたんだ?」 「今日…今日、彼の命日だった」 「彼って…」 「うん」
一瞬高志はさびしそうな顔になり…。 「俺も行っていいか?」 「え?」 「ほら…」 高志は、母親に聞こえないように、私の耳にそっと近づけてこう行った。
「必ずあなたにかわり桜を守って見せます…って言わなきゃ」
彼は、すっきりとした顔つきで言った。
★ 彼女は、今泣きそうな顔をして、外を眺めている。 彼女の実家である北都県山之上市へ特急を使い、バスでむかっている。 そもそも、桜が引っ越していった先は、学園都市で、人口も桜ヶ丘市よりはるかに多い。 有名大学山之上教育大学を筆頭に、山之上工科大学、山之上教育医学大、等々様々な大学がある。 その後ろに、小中高と、エスカレート式に続く。 そのため、平均年齢が他の都市よりは、低くさらに歳入もおおい。 福祉施設も他市より多い。 「あそこが私の学校」 指を差した先に、桜の通う山之上教育大付属山之上高等学校が見える。 そして、その向こうの丘に彼が眠っている。 「先に、着替え取りに家に寄っていくわ。高志も寄っていって」 バスから降りて、数分歩いたところに、桜の家があった。 自分の家より、いくらか大きく、庭には大きな犬がいた。 実際、俺は少し犬が苦手なのだが…。 チャイムを鳴らすと、鍵が開き、少し懐かしい桜のおばさんの声がした。 「高志君いらっしゃい」 俺は、お辞儀をした。昔と変わっておらず、ゆっくりとした口調だった。 「ささ、とにかく家に入って、冷たいお茶でも出すわ」 俺は、今に通され、桜は自室にいったん戻った。 「高志君、桜に付き合って来てもらって、ありがとう」 「いいえ、そんな構いません」 「それとね…」 おばさんは、真面目な顔になって俺のほうを向いた。 「さっき、桜を見て驚いたんだけれど、あの子、以前より明るくなったわ…あなたのおかげね…ありがとう」 俺は、唐突に言われて、少し驚いた。 「明るくなったって…前はそんなに暗かったんすか?」 おばさんは、少し考えてから言葉を選ぶように言った。 「高志君知ってるかしら…あの子に起こった出来事」 「桜の彼氏が自殺してしまった事ですか?」 「そう」 「ええ…だいたいは…」 「桜はね、彼が死んでから、自分を思いつめたように、暗い顔をして、日々を過ごしてきたの…成績も落ちてきたしね…」 ここまでは、ありがちなパターンだった。 「成績はいいとして、気持ちがだいぶ病んでたみたいね…笑わなかったのよ」
笑わなかった? なんで?
「何で笑わなかったのですか?」 「彼の自殺は…自分のせいだと思っていたのよ」 自分のせいだと思っていた!? 「そうですか…」 あえて、俺はそれ以上話を聞かずそのまま麦茶を口に運んだ。
|
|