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作品名: 作者:銀河

第8回   8

 外は、薄暗く肌寒い。
桜には、厚着するように言ったが、ゆかたの上にカーディガンしかはおっていない。
「ここに来たら、やっぱこれをみて帰らなきゃ」
「日の出なんてどこも同じじゃない?」
「ここの日の出は、綺麗なんだぜ、本当に」
「期待はずれだったら、怒るから」
「へいへい」
その時、水平線上から明かりが漏れた。
その明かりは、一気に両端に広がり、そして、太陽が出てきたのだ。
「わぁー」
桜は、幼い子供みたいに歓喜をあげた。
「な、綺麗だろ?」
「うん・・・」
喜びながらも、じっと喜んでみていた。
しかし、彼女の面影には、どこか遠い昔を悲しむ顔をしていたように見えたのは、気のせいだろうか・・・



 暗い空と、黒い海の間から明るい光がみえた。
この世の始まりのような光である。
横には、眩しそうに日の出を見る高志がいる。
ふと、私も眩しそうに瞳を細めて言ってみた。

「新しくスタートしてみるかな?」

「え?」
「なんでもない」
高志は、不思議そうな顔をして、また朝日のほうに見入った。
そう、過去のことは忘れて、今出来ることからまた再スタートしよう。


そう決めた。




 朝飯を食べてから、俺たちは、特によるところもないので、帰ることにした。
来るときとは、違う気持ちになりながら、俺は列車に揺られながら桜を見ていた。

 「あら、二人とも、帰りが早いのね?」
母さんは、二人同時に帰ってきたのを見てこう言った。
ヤバイ・・・
別々に帰ってくるんだった・・・。
とっさに、俺は嘘をついた。
「いや・・・そこで偶然遇ったんだよ」
「そう。でも、あんた何か嘘ついてない?」
「ついてないよ・・・」
「あんた、嘘つくときは鼻の上にしわを作るからね」
「え!!」
「やっぱり何か嘘ついてない?」
「何だよ・・・嘘って・・・」
「二人でどこかに出かけていたとか・・・」
図星だった・・・女性の勘はやはり鋭い・・
「なんてね、いくら幼馴染でもそれは無いか。それじゃ〜小説みたいよね」
「ハハ・・・ハハハ、そうだよまったく」
俺はすごく冷や汗を掻いていた。
なのに桜は、

「ふ〜ん、嘘つくと鼻の上にしわね・・・覚えておこう」

俺は、たじたじしながら桜を見た。
すると、桜は苦笑いした。
「お前、場慣れしてるだろ・・・」
「うん、昔朝帰りした」
彼女は、はっきりと言った。
「え!!」

「う・そ・よ」

笑いながら、すばやく階段を上がっていった。

「ほんとうか…?」


今は、高志の部屋の窓から外を眺めている。
近所の子供たちが賑やかに走り回っている。
昨晩高志に告白した。
また傷つくかもしれないというリスクを背負って。
でも、嫌な気分じゃない。
それは、高志だからだ。
「そうだ…」

私は、ふとした事を思い出した・・・
今日は…彼の命日だった…。

私は、鞄を持って急いで階段を降りた。そこに高志がいた。
「どうしたんだ?」
「今日…今日、彼の命日だった」
「彼って…」
「うん」

一瞬高志はさびしそうな顔になり…。
「俺も行っていいか?」
「え?」
「ほら…」
高志は、母親に聞こえないように、私の耳にそっと近づけてこう行った。


「必ずあなたにかわり桜を守って見せます…って言わなきゃ」


彼は、すっきりとした顔つきで言った。




彼女は、今泣きそうな顔をして、外を眺めている。
彼女の実家である北都県山之上市へ特急を使い、バスでむかっている。
そもそも、桜が引っ越していった先は、学園都市で、人口も桜ヶ丘市よりはるかに多い。
有名大学山之上教育大学を筆頭に、山之上工科大学、山之上教育医学大、等々様々な大学がある。
その後ろに、小中高と、エスカレート式に続く。
そのため、平均年齢が他の都市よりは、低くさらに歳入もおおい。
福祉施設も他市より多い。
「あそこが私の学校」
指を差した先に、桜の通う山之上教育大付属山之上高等学校が見える。
そして、その向こうの丘に彼が眠っている。
「先に、着替え取りに家に寄っていくわ。高志も寄っていって」
バスから降りて、数分歩いたところに、桜の家があった。
自分の家より、いくらか大きく、庭には大きな犬がいた。
実際、俺は少し犬が苦手なのだが…。
チャイムを鳴らすと、鍵が開き、少し懐かしい桜のおばさんの声がした。
「高志君いらっしゃい」
俺は、お辞儀をした。昔と変わっておらず、ゆっくりとした口調だった。
「ささ、とにかく家に入って、冷たいお茶でも出すわ」
俺は、今に通され、桜は自室にいったん戻った。
「高志君、桜に付き合って来てもらって、ありがとう」
「いいえ、そんな構いません」
「それとね…」
おばさんは、真面目な顔になって俺のほうを向いた。
「さっき、桜を見て驚いたんだけれど、あの子、以前より明るくなったわ…あなたのおかげね…ありがとう」
俺は、唐突に言われて、少し驚いた。
「明るくなったって…前はそんなに暗かったんすか?」
おばさんは、少し考えてから言葉を選ぶように言った。
「高志君知ってるかしら…あの子に起こった出来事」
「桜の彼氏が自殺してしまった事ですか?」
「そう」
「ええ…だいたいは…」
「桜はね、彼が死んでから、自分を思いつめたように、暗い顔をして、日々を過ごしてきたの…成績も落ちてきたしね…」
ここまでは、ありがちなパターンだった。
「成績はいいとして、気持ちがだいぶ病んでたみたいね…笑わなかったのよ」

笑わなかった?
なんで?

「何で笑わなかったのですか?」
「彼の自殺は…自分のせいだと思っていたのよ」
自分のせいだと思っていた!?
「そうですか…」
あえて、俺はそれ以上話を聞かずそのまま麦茶を口に運んだ。


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