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作品名: 作者:銀河

第6回   6

あれは、二年の雪の降る12月の終業式の日だった。
私は、ある一人の男子と付き合っていた。
もちろん、私も好きだったし、彼も、私のことが好きだった。
しかし、彼は私を置いて、先に逝ってしまった。
原因は、彼のクラス内で起こった彼に対するいじめだった。
私は、それを知ったとき、気が遠くなりかけた…。



彼は、高層ビルの屋上から羽ばたき、何処かに昇華してしまったのだった…。



それを聞き終えた、俺は、ただ呆然と、そこに立ち尽くした。
心の弱い桜は、その現実に、今も耐えているのだ。
それを知った、俺に何が出来る?
俺の、思考回路は、そこで、止まったしまった。
桜は、泣きながら、砂山を崩し始めた。


自分の心を崩すように…。




気が付くとそんな桜を俺は何を思ったか、後ろから、力いっぱい抱きしめていたのだ。
後ろからは、海の声がからかうかのように、俺の心をはやしたてる。
どうにかなってしまいそうな時、桜はやはり、前を向きながら言った。
「もう、忘れなきゃね。だって、私には、高志が居るんだもの…」
その一言で、すべてが、漣に流されたのごとく、俺は、この坂野 桜を好きになってしまったらしい…。
そのまま、二人は動かなかった。
ただ抱き合いそして、漣を二人で眺めていた。

「聞こえる…」


「何が?」


「海の声………………」


彼女の肩越しには少し黒ずんだ海が見えた。


しかし、彼女の瞳は空のように青く透き通っていた。

羽衣の天女の如く…………



彼の胸板は厚く、やはり水泳部のせいだろうかイルカのような体つきをしている。
ぎっしりとした両腕は、まるでオールのようだ。
私は、ただ高志の体にしがみついていた。
私の後ろで、暗黒の海がザザザザ…と音を鳴らしている。

「私の心の声も…こんな感じ?」

高志に聞いてみた…

少しの沈黙・・・

そして、
「いいや、天使のようだ」
「まるで、羽でも生えているようだ」


「天使のよう…そんなの憎いよ、私そんなのじゃない」


高志の黒いまなざしが、熱く私を見つめる。

「そうじゃないさ、本当にそう思っただけ」

高志は、私より一歳年下なのに、私より、大きく見える。
いいや、私が小さいのかもしれない。



今は、こんなことしか出来ない。
彼氏でもない、ただの幼馴染として、これくらいしか出来ないのが、残念でならない。
ぎゅっと抱きしめると、桜は今までこらえていたものをすべて、流した。
まるで、あのごみたちのように・・・
すると、桜が見上げて、唐突に言い出した。
「ありがとう・・・もう大丈夫だから」
彼女は、満面の笑みで、じっと見つめていた。
「コホン・・・そろそろ寒くなってきたし、帰るとするか」
「うん、そうだね」
そして、俺と桜は民宿のほうへ寄り添うように帰っていった。



今の私は、あの人の分より、もっと生きて、そして、もっと幸せになる。
そう決めた。
でも、誰と・・・?
高志と?
昔の夢は高志のお嫁さんになることだったから?
頭の中でぐるぐる回転するのだった。
『おい、桜…大丈夫か?』
 ここは、民宿の部屋。
そして、今は二人でテレビを見ていた。
「ううん、大丈夫」
「そうか」
そういい、高志はまたテレビに目を向ける。
窓の向こうでは、波の音がザバーン、ザバーンと音を立てている。
「そろそろ寝ようか」静かに、高志は言った。
「うん」


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