☆ 目の前には綺麗な海が、広がっていた。 荒々しくうごめく波が私の心を表しているようだ。 そう、人の心もこの海のように、荒々しい表面と、湖みたいに、穏やかな表面を見せる…私の心は…いったいどっちなのだろう? 『次は、漣ノ。次は、漣ノ…』列車のアナウンスが、到着を告げた。 「さぁ〜降りるぞ」 高志は後ろで言っていたが、私は
「高志の練習している海だ〜」
といい、一目散に駆け出した。 駅は無人駅で、国道を挟んで、そこは海が広がっていた。 私と高志は道路を渡り、ビーチに入った。 「綺麗ね…」 人が、ロマンチックに語っていたら… 「そうか?そこに、ゴミなんて落ちているけどな…ハハハ」 「何よ〜人が感動に浸っていたのに!!」 ゴミは落ちていたけどこの波たちが、いつかは洗い流してやると言わんばかりに、海は綺麗だったのだ。 そう思ったとき、高志が、私の胸の内を悟ったのか、こんな事を言った。 「ここの海は、普段は荒々しいが、今日はそうでもない…だから、ゴミが落ちているんだよ、運が悪かったのかな?」 私は、すぐに、 「そうかもね」 と言った。
この時間が、続けばいいと思ったのは気のせいだろうか?
★ 桜はずっと波を眺めていた。 今日は、砂浜にいつも居るはずの、ライダーたちも、今日はなぜか居ない。 俺が、一番この海が綺麗だと思うときは、夕暮れと、朝日が昇る早朝だ。 それを、桜にも見せてやりたいと思ったせいだろうか…俺は、こんなことを言い出した。 「今日は、ここに泊まって行かないか?」 うん?何を言い出すのだ?俺…
☆ いきなり、高志が 「今日はここに泊まっていかないか?」 と、言い出した。 「いったい何を考えているの?お金だって無いし」 「金があればいいのか?」 「そういう問題?」 「金なら、ちゃんとあるし、この近くに、以前使った民宿があるんだ。民宿といっても、とても綺麗だぜ。温泉もあるしな」 「じゃ〜泊まっちゃうかな〜」 「桜に、ここの夕日を見せたいのだ…それを見てからだと、もう列車は無いんだ…いいだろ?」 彼の、瞳が恋しそうに見つめる…。
その民宿は、民宿といった感じではなく、旅館に近かった。 料金は、少々高かったが、高志が、奮発をして払ってくれた。 部屋は、10畳と二人にしては、少し広かった…全体的に見て、客はそんなに泊まってはいないみたいだ。
★ とりあえず、親にそれぞれ電話した。 俺は、山岸先輩の家に泊まる。 そして、桜は昔の友達の家に遊びに行くと連絡した。 まぁ〜初歩的な嘘になってしまうが…。 ここの民宿は、何と言ってもご飯がおいしいのだ。 海産物から山の倖まで、ピンからキリまである。 なので、少々料金設定が高いのかもしれない。 「トホホホホ…」
そんなわけで、おいしい夕食を終えた。 「あ〜美味しかったね」 「だろ、ここの民宿は回りの宿屋とは一味違う。そこが、いいのかもしれない」 「そうね、高志がそう言うのもわかる気がする」 「さて、何をする?」 「そうね…海でも見に行かない?」 「そうだな…海、見に行くか?」 そういい、俺たちは、ツッカケを履いて、砂浜へ出た。 月は、三日月で、暗い砂浜をてらしていた。 周りには、俺たちのほかに居ない…。
数分たち、桜は飽きたのか、砂山を作り始めた。 地面にかがみこみ、小さい背中が月明かりに照らされている。 その時、彼女が俺に背中を向けながら言った。 「高志、知ってる?人が死んだらどこに行くか…」 「さぁ〜どこに行くんだろうな?天国にでも行くんじゃないか?」 「本当にそう思う?」 「ああ、そうじゃないか?」 彼女の瞳が、こちらを向いている。
真実を、知りたそうに…
「でも…でも、彼はそんなところには行っていないわ…」 「彼って…いったい誰?」 彼女は、ハッと目を見開き、俺を永久に失ったような目で見つめた。 「ごめん…なんでもないの」 「何でもないわけないだろ?俺に、ちゃんと話してくれ」 桜は、最初から最後まで、話してくれた。 俺にだ。 俺は…残酷すぎて、想像がつかなくなっていた。
|
|