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作品名: 作者:銀河

第10回   10

墓参りを終え、俺と桜は山之上市内で買い物をして帰ることになった。
「今日のメニューは…」
桜は、母親からもらったメモを参照しながら買い物をするようだ。
山之上市は学問機関が多いせいか、学生が多い。
小中高生から大学生まで。
高校と大学にいたってはカップルが多い。

ふと、あることを思いついた。
思いついたからには実行しなければいけない。
「桜…」
「うん?何?」
「腕組むか」


一瞬、桜は戸惑うような顔をした…。


「な?腕組もう…」

「うん、いいよ」
無邪気な顔で腕を差し出してきた。

そして、俺はそこに腕を通した。
「これも、いいもんだな」
「そうね」
そして、桜の頭が肩に寄りかかってきた。


目の前には、夕日がきれいに輝いていた。
商店街を照らす夕日はとても綺麗だった…。



「ただいま…かあさん、材料買ってきたわよ」
「あらら…なんか余計なものが入ってるわね」
「いいじゃない、少しくらい」
それは、桜が好きなショートケーキだった。
「これはご飯の後ね」
桜が、階段を上り部屋に入ってゆく。
おばさんが、俺の方を向いてこんなことを言い出した。

「高志君、私たち夫婦はあなたたちの交際に賛成ですからね…気にせずに付き合ってちょうだい」

桜のおばさんが満面の笑みで言った。
「え?どう言う意味ですか?」
「引越し前の約束を桜はきっとまだ覚えているはずよ…今日まで大切に持っていたわよ」

俺の頭の上には十数個のハテナマークが浮かびあった。


部屋に西日が照らす。
高志は覚えているだろうか・・・この紙切れを・・・
あれは、二年生の冬ことである。
その日、私が学校から帰宅すると、机の上に一通の手紙が置いてあった。

高志からであった・・・


急いで封を開ける。
そこには、一枚の紙が入っていた。

『いつもあそんでくれてありがとう』

ここまでは、決まりきった文だ。

『この前は、家族で遊園地に行ったよ』

などと、報告文が並ぶ。
どうやら、学校の授業で書いたようだ。
しかし、最後の文にこう書いてあった。


『好きだから、将来結婚してやる』 と・・・。


このときの彼は『結婚』の意味を理解して書いたのだろうか?

今なら、確かめられるだろうか?

階段から足音がした。
高志だとすぐにわかった。
『トン・トン・トン・・・』

ノックの音がする・・・
数秒の後に
「桜、いるか?下で夕飯の準備をしないか?」

確かめるなら今だ・・・
実行に移す。


「高志・・・ちょっと入ってきてよ」





桜が部屋に入ってきてといってきた。
「はいって・・・いいのか?」

少しドキドキする・・・女の子の部屋に入るのは何年ぶりだろうか・・・。

ドアをゆっくり開ける・・・そこには、綺麗な部屋が見えた。
夕日が入りこんでとても綺麗だ。

「どうしたんだ?早く準備しちゃおうぜ」

桜は、きっちりとした目をしている。
この目は何かを言ってくる…俺にはわかる・・・。
それを見て俺はまじめな顔になる。
「桜・・・何か言うことあるのか?」

「高志・・・この手紙覚えている?」

彼女は、一枚の紙を手渡した。

「これは・・・」
これは、幼き日の俺が書いた桜宛の手紙だった。

「まだ持っていたのか」
少し恥ずかしくなった。
内容がないようだし・・・

「当たり前でしょ…そんな告白されたら・・・」

「そうだな・・・」

「ねぇ?」
彼女は綺麗な眼差しで見つめてきた。
「今も・・・今でもこの約束は有効かな?・・・・・・」

この答えに俺は・・・
「ああ、もちろん・・・・・・」

彼女はいきなり嗚咽を洩らした。
そして、俺になだれ込んできた。
ダムの如く・・・





部屋は暗くなり、家の前の外灯に灯が灯る。
桜をなだめたまま、時間が過ぎた。

「高志・・・」
「何だ?」
「私、今とても幸せよ」
「そうか・・・それはよかったよ」

桜は、笑顔だ。
そんな彼女を愛おしく思い、かわいく思う。

下から声がした、
「桜、高志君ご飯よ」

「桜、行こうか・・・」
「うん」


遠くの方で夏の香りがした。


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