★ 墓参りを終え、俺と桜は山之上市内で買い物をして帰ることになった。 「今日のメニューは…」 桜は、母親からもらったメモを参照しながら買い物をするようだ。 山之上市は学問機関が多いせいか、学生が多い。 小中高生から大学生まで。 高校と大学にいたってはカップルが多い。
ふと、あることを思いついた。 思いついたからには実行しなければいけない。 「桜…」 「うん?何?」 「腕組むか」
一瞬、桜は戸惑うような顔をした…。
「な?腕組もう…」
「うん、いいよ」 無邪気な顔で腕を差し出してきた。
そして、俺はそこに腕を通した。 「これも、いいもんだな」 「そうね」 そして、桜の頭が肩に寄りかかってきた。
目の前には、夕日がきれいに輝いていた。 商店街を照らす夕日はとても綺麗だった…。
★ 「ただいま…かあさん、材料買ってきたわよ」 「あらら…なんか余計なものが入ってるわね」 「いいじゃない、少しくらい」 それは、桜が好きなショートケーキだった。 「これはご飯の後ね」 桜が、階段を上り部屋に入ってゆく。 おばさんが、俺の方を向いてこんなことを言い出した。
「高志君、私たち夫婦はあなたたちの交際に賛成ですからね…気にせずに付き合ってちょうだい」
桜のおばさんが満面の笑みで言った。 「え?どう言う意味ですか?」 「引越し前の約束を桜はきっとまだ覚えているはずよ…今日まで大切に持っていたわよ」
俺の頭の上には十数個のハテナマークが浮かびあった。
☆ 部屋に西日が照らす。 高志は覚えているだろうか・・・この紙切れを・・・ あれは、二年生の冬ことである。 その日、私が学校から帰宅すると、机の上に一通の手紙が置いてあった。
高志からであった・・・
急いで封を開ける。 そこには、一枚の紙が入っていた。
『いつもあそんでくれてありがとう』
ここまでは、決まりきった文だ。
『この前は、家族で遊園地に行ったよ』
などと、報告文が並ぶ。 どうやら、学校の授業で書いたようだ。 しかし、最後の文にこう書いてあった。
『好きだから、将来結婚してやる』 と・・・。
このときの彼は『結婚』の意味を理解して書いたのだろうか?
今なら、確かめられるだろうか?
階段から足音がした。 高志だとすぐにわかった。 『トン・トン・トン・・・』
ノックの音がする・・・ 数秒の後に 「桜、いるか?下で夕飯の準備をしないか?」
確かめるなら今だ・・・ 実行に移す。 「高志・・・ちょっと入ってきてよ」
★ 桜が部屋に入ってきてといってきた。 「はいって・・・いいのか?」
少しドキドキする・・・女の子の部屋に入るのは何年ぶりだろうか・・・。
ドアをゆっくり開ける・・・そこには、綺麗な部屋が見えた。 夕日が入りこんでとても綺麗だ。
「どうしたんだ?早く準備しちゃおうぜ」
桜は、きっちりとした目をしている。 この目は何かを言ってくる…俺にはわかる・・・。 それを見て俺はまじめな顔になる。 「桜・・・何か言うことあるのか?」
「高志・・・この手紙覚えている?」
彼女は、一枚の紙を手渡した。
「これは・・・」 これは、幼き日の俺が書いた桜宛の手紙だった。
「まだ持っていたのか」 少し恥ずかしくなった。 内容がないようだし・・・
「当たり前でしょ…そんな告白されたら・・・」
「そうだな・・・」
「ねぇ?」 彼女は綺麗な眼差しで見つめてきた。 「今も・・・今でもこの約束は有効かな?・・・・・・」
この答えに俺は・・・ 「ああ、もちろん・・・・・・」
彼女はいきなり嗚咽を洩らした。 そして、俺になだれ込んできた。 ダムの如く・・・
部屋は暗くなり、家の前の外灯に灯が灯る。 桜をなだめたまま、時間が過ぎた。
「高志・・・」 「何だ?」 「私、今とても幸せよ」 「そうか・・・それはよかったよ」
桜は、笑顔だ。 そんな彼女を愛おしく思い、かわいく思う。
下から声がした、 「桜、高志君ご飯よ」
「桜、行こうか・・・」 「うん」
遠くの方で夏の香りがした。
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