「漣」 〜数年越しのラブレター〜
小波の揺れる砂浜で夜を明かした。 波を見ていると昨日の出来事はついさっきのように思える。 俺は重い腰を持ち上げてテントへと向かった。
過去の記憶は暗闇の中に葬り去りたい この世から大切な人がいないのならば 私は無になる
★ 俺の名前は飯田 高志。 桜が丘高校二年になる。 部活動は水泳部である。 夏の暑い日は砂浜にキャンプをはり仲間で泊まり込む。 そう、夏の合宿なのだ。 桜が丘の夏は日差しが強いが、冬は寒い…まぁ、雪は降らないが。ビーチには俺たちやライダーくらいで、家族連れのキャンパーは向こうに最近出来たオートキャンプ場におおい。今日は午前の練習を終わらしたら解散で家へと各自戻る。 久しぶりに母親のうまい料理が食べられる。 先輩が唐突に… 「さて、やるか!!」 と、海に向かって走り出した。 もちろん、僕らも先輩を追い越すように走った。 夏のインターハイが終わったら先輩も引退となるのだ…少し寂しくなるな。 俺らは体操をして海へ入った。海は冷たく、行く先を拒むようだ。 波はただ空しく俺に立ちはだかる… 「ようし!!今日はこのくらいにして海から上がろう」 昼飯をみんなで適当に食べ解散となった。 電車に乗りさらに駅からバスに乗り、そして夕方頃に家路に着いた。
「ただいま」しかし、返事が返ってこない…虚しい。 「母さん買い物にでも行っているのかな?」 そのまま部屋にもどりとりあえず疲れたので寝ることにした。 「今回も練習きつかったな」 そう言いながら布団をめくった。そこには…人がいた!!とっさに戻し「他人の家!?」周りをみたが自分の部屋だ。じゃ〜妄想か?もう一度みてみた…夕日に照らされた…少女がいた…やっぱり布団をかぶせた。何なんだ?いったい…意味不明である。寝ようとしたら意味不明な少女が寝ている。しかも、同い年と見た‼俺は訳もわからずとりあえず床に寝た。すごく眠いのだ…。
どのくらい寝たのだろう…あたりは夕焼けから暗がりになっていた。さっきの少女は…幻覚だともう居ないはずだ。 布団をめくる…いない。 「やっぱり幻覚だよな〜」 いくら眠いからと美少女の幻覚を見るとは何たる不覚…我ながら苦笑してしまう。 その時お腹の虫が鳴った。 「そう言えば何も帰ってから食べていないな」 居間から笑い声が聞こえる。 「飯食っているのかな」 そのままリビングへ向かい、扉を開けながら「飯なら起こして…」頭を掻きながら動作が止まる。
あのベッドの少女が飯…いやご飯を食べていた。
「あら起きたのね、高志もご飯食べなさい。どうしたの?」 「どうしたのじゃないでしょ、その女の子は誰?」 「誰でしょ〜」と少女は笑顔で言う 「あら、高志忘れたのか?」父が笑いながら言った。 「何年か前に隣に住んでいた桜ちゃんだぞ」 「さくら…あー桜か!!なんですと!!!!」 「高志、久しぶり…思い出してくれたかな?」 彼女はぎこちない苦笑いをしていた…。
そう、あれは忘れもしない小学6年の時、俺の幼なじみであり、物心着いた頃から意識し始めていた相手坂野 桜だ。 隣に住んでいたが、父親の移動のため北の方へ引っ越したはずだ。 桜は俺より一歳年上で、今は大学受験生だ。 夏休みを利用して受験校でもある桜ヶ丘教育大学に入るため夏休みはこの地区にある教育大専門塾のゼミを受けるそうだ。 そのため家に滞在するというわけだ。 「しかし、驚いた…桜が帰っているとは」 「おどろいたでしょ」確かに驚いた、あの時より美しさは増しその辺のアイドルより綺麗かもしれない。 「そうだ、さっきお前俺のベッドで寝てただろ!!」 「ゴメ〜ン、眠くなってさ」 「たくもう、ビックリしたんだぜ、あまりにも…」俺は言葉を詰まらせた。 「あまりにも何よ〜?」 「何だって良いだろ!!ごちそうさま!!」俺はそそくさと部屋に入った。 リビングより「たくもう…」彼女のハイな声が聞こえた。
俺は自室のベランダから月夜を眺めていた。 何も考えず…ずっと。そこに布団を持った桜が部屋に入ってきた。 「何だよ!!いきなりノックもしないで!!」 「ノックって今日から同居人だからノックしなくたっていいでしょ」 「ああ、そうか…て納得するわけ無いだろ!!まさか…」 微妙に俺は悟った。この部屋俺一人じゃ〜広いし…。 「うふふ、そのまさかよ!!この部屋しかないじゃない。私の部屋…」 「はっ?絶対やだよ!!いくら何でもそれは無茶だ!!」 そこに母が来て 「いいじゃない、さては変なこと考えてないわよね?」 「やだ、高志ったら」 「そんなもん考えてねーよ!!」 「じゃ〜決定ね」 「おばさんありがとう!!」 女はなぜかこんな時だけ強い…。 「好きにしろ!!」 俺は桜に向かい言った。
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