「さてペット。新しく入った私の助手を紹介したいと思うの。いいわねペット。仲良くするのよペット」 「ペット連呼するなああああっ!!」 涙目で抗議する――ペット。
しかしまぁ、ペットが抗議したくなるのも無理もない。 この神の使いというのは、火の神・氷の神が使える一生に一度の技。その使いは主に絶対服従はするが、プライドも高く、その力は術者に限りなく近い。 つまり、主従関係にありながら、戦場ではもっともパートナーとして適した存在である。
それを雪ダルマ仕様にしてさらに名前をペットなんてつける雪姫。 非常識すぎて涙が出そうである。
『わーっ。可愛い。触ってみたい。でも、怒るかな……』 佐織もさっきまでの悩みもどこへやら、輝く瞳でペットを見ている。 「遊んでもいーわよ。佐織だけには特別許してあげる♪」 にこにこしながら、雪姫も惨いことを言う。 「こ、こら雪姫っ!?」 うろたえるペットに、にっこりと微笑みながら、 「主のお願い……聞いてくれるわ・よ・ね?」 何か後ろに黒いオーラ放ちつつ言う雪姫に、ペットはただ、涙だくだく流しながら頷くしかなかった。
――暫くして。 すーすーと、ペットの部屋から静かな寝息が聞こえる。 すっと細くふすまを開けると、そこには雪姫の見た中で一番安らかな寝顔で寝ている佐織が見える。 それを見て、雪姫は安堵の微笑みを浮かべた。
「……雪姫」 ペットがその隙間からそっと出てくる。 「お仕事随分遅れちゃった。手伝ってくれる?」 さっきまでの黒い笑みとは違う晴れた笑顔で言う雪姫に、ペットもため息をついて、 「随分あの娘に肩入れするんだな」 そう呟いた。
雪姫の瞳に、わずかに悲しみの感情が揺らめく。 しかしそれも一瞬のこと。 すぐに笑みを戻し、 「私って自分が可愛いから! ま、これも昔の罪滅ぼしゴッコみたいなものね!」 元気にそう言って歩いていく。 その後姿を呆れつつ追いながら、ペットはぽつり呟く。 「……ひねくれもの」
それでも雪姫は、ペットが自分のことを理解してくれていると知っている。 何しろ自分の分身なのだ。 戦うためではなく、自分の支えとして欲しかった。理解者が。 火王の心を失い、再び戦いの場に立たされても――いや立たされたからこそ。 雪姫は未だに見続けなければならないのだ。かつての血の惨状を。
雪姫が佐織を守るのは、かつての雪姫の誓いに揺らぎがない証。 血を流さないために自分の血を流した、かつての雪姫から決して変わらないという証。
「さて、身勝手なお姫様の仕事の手伝いでもするかな」 儀式の場に立ち、冷気を放出する雪姫の横で、ペットも静かに冷気を大気に流し始めた。
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