鼻歌を歌いながら歩いていく雪姫に後ろからついて行きながら、佐織は考えていた。 自分のような人間がここにいてもいいのだろうか、と。 現に今も、雪姫の壮絶な過去を聞かされても、自分の苦しみだけで精一杯なのだ。 佐織の苦しみまで包んでくれる雪姫を見れば見るほど、自分が醜い存在のように思えてならなかった。 「ほら、ここよ!」 そんな佐織の内心とは裏腹に、雪姫の明るい声が聞こえてきた。 はっとして顔を上げる。 そこには、きらきらした笑みを浮かべて佐織を振り返る雪姫――ってあれ? 佐織は呆然としていた。 どこかで見覚えのある場所だと思ったら、雪姫が立っているその部屋の隣は、さっきまでいた当人の部屋だったからだ。
『ちょっとタノシーこともしなきゃね♪』 そう佐織に言った雪姫だが、実際はさっきの脅しの仕事だけしかせずに、まっすぐここへやってきた。
いや、一応急ぎの仕事はあるらしいのだ。 歩いている最中に、当の雪姫が仕事について語っていたから。 氷の一族は、人間界へ冷気を送る仕事がある。本来氷の一族が一番に請け負っている仕事だそうだ。 人間の文明が発達して、その反動で温度が上昇したため、火の一族がする仕事は減る一方だそうだが、変わりに氷の一族の仕事は日に日に増えているらしい。
『そんな大事な仕事を放りだして、いいのだろうか』 根本的な疑問が佐織の頭に浮かび上がる。 しかし、そんな佐織の考えてることなど、まるで無いかのように、雪姫は楽しそうにドアを開けた。 「……おす」 中から二人を迎えてくれたのは。 ………………。 ……何これ? 佐織は思わず目を点にした。
いや、結構プリティーではある。 つぶらな瞳に、丸っこいボディー。体は雪姫よりずっと真っ白で――頭には小さな帽子が乗っかっている。 「雪ダルマ?」 ぽつり言った佐織の言葉に、その物体(?)はくわっ!とまなじり上げつつ、 「失敬なこと言うなっ!! 僕はこれでも神の使いだぞっ!!」 小さな体をぴょんぴょこ跳ねさせながら、一生懸命抗議していた。 「か、神の使い?」 それにしては、妙にプリティなお姿だと佐織は思う。
「私が前に雪の分身として作ったのよ♪ 名前は『ペット』♪ よろしくね♪」 「………………雪姫」 雪姫の言葉にその雪ダルマ、もといペット(まぁどちらにしても救いがないが)は、思い切り滝のような涙を流していた。
|
|