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作品名:雪姫―乾山佐織編― 作者:激辛の人

第6回   ファンシーな神の使い
 鼻歌を歌いながら歩いていく雪姫に後ろからついて行きながら、佐織は考えていた。
 自分のような人間がここにいてもいいのだろうか、と。
 現に今も、雪姫の壮絶な過去を聞かされても、自分の苦しみだけで精一杯なのだ。
 佐織の苦しみまで包んでくれる雪姫を見れば見るほど、自分が醜い存在のように思えてならなかった。
「ほら、ここよ!」
 そんな佐織の内心とは裏腹に、雪姫の明るい声が聞こえてきた。
 はっとして顔を上げる。
 そこには、きらきらした笑みを浮かべて佐織を振り返る雪姫――ってあれ?
 佐織は呆然としていた。
 どこかで見覚えのある場所だと思ったら、雪姫が立っているその部屋の隣は、さっきまでいた当人の部屋だったからだ。

『ちょっとタノシーこともしなきゃね♪』
 そう佐織に言った雪姫だが、実際はさっきの脅しの仕事だけしかせずに、まっすぐここへやってきた。

 いや、一応急ぎの仕事はあるらしいのだ。
 歩いている最中に、当の雪姫が仕事について語っていたから。
 氷の一族は、人間界へ冷気を送る仕事がある。本来氷の一族が一番に請け負っている仕事だそうだ。
 人間の文明が発達して、その反動で温度が上昇したため、火の一族がする仕事は減る一方だそうだが、変わりに氷の一族の仕事は日に日に増えているらしい。

『そんな大事な仕事を放りだして、いいのだろうか』
 根本的な疑問が佐織の頭に浮かび上がる。
 しかし、そんな佐織の考えてることなど、まるで無いかのように、雪姫は楽しそうにドアを開けた。
「……おす」
 中から二人を迎えてくれたのは。
 ………………。
 ……何これ?
 佐織は思わず目を点にした。

 いや、結構プリティーではある。
 つぶらな瞳に、丸っこいボディー。体は雪姫よりずっと真っ白で――頭には小さな帽子が乗っかっている。
「雪ダルマ?」
 ぽつり言った佐織の言葉に、その物体(?)はくわっ!とまなじり上げつつ、
「失敬なこと言うなっ!! 僕はこれでも神の使いだぞっ!!」
 小さな体をぴょんぴょこ跳ねさせながら、一生懸命抗議していた。
「か、神の使い?」
 それにしては、妙にプリティなお姿だと佐織は思う。

「私が前に雪の分身として作ったのよ♪ 名前は『ペット』♪ よろしくね♪」
「………………雪姫」
 雪姫の言葉にその雪ダルマ、もといペット(まぁどちらにしても救いがないが)は、思い切り滝のような涙を流していた。


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