戦いは膠着状態にあった。 いや、あったように見えた。
火王と雪姫と。 四面とペットと。 お互い、因縁浅くない対決。
しかし、四面は雪姫にとってもペットにとっても、自分を産み落とした存在であるといえる。 そんなものと策も無くまともに戦ったら、勝ち目などない。 ――だが。
四面の攻撃をペットが盾で受け、それを縫って雪姫の術が火王を襲う。 雪姫もペットも元は一つの存在。お互い連携を取ることにそれほどの抵抗はない。 対する四面と火王は、目的のための主従関係。 力で従わせるだけでは、心を通わせた連携を取るなど到底無理な話。
それともう一つ。 『……ばかな……なぜ、なぜ我の攻撃をたやすく弾く?』 最初は慣れていない火と氷の同時の攻撃にも、段々と合わせ弾き、次の攻撃へと転じる時間が早くなっていく。 『火の攻撃と氷の攻撃……たかが雪族になぜたやすく……』 「わからない?」 戸惑いを隠せない四面の言葉に、冷たく雪姫が言葉を放つ。 それでも隠せない戸惑いを抱く四面に、雪姫は目を細めて言葉を紡ぐ。 「そもそも、何であなた達は力を合わせれば更なる高みへと上ると信じていたわけ?」 その言葉に、目を大きく見開いたのは火王。
――そう。 これは全て、一つの出来事から繋がっていたことだったのだ。
「原因は、私達の娘、よね? あの子は、雪族と火族の力を同時に使い、私達では到底及ばない力を使うことが出来る。 ――でもね」 力を込めつつ、雪姫は言葉を続ける。 それに反応して、火王と四面の殺気が膨れ上がる。 それを、雪姫は静かにただ見る。
「あの子は、一人なのよ」 呟くように言った。 その言葉の内に、拭い切れない後悔が混じっているのを、佐織は確かに感じた。
「生まれたときから側にある力だもの。あの子にとって二つの力を使うことは当然のことよね。 ――でも。 あなた達はお互いに利用し合う存在。 どうしてあの子と同じ力を手に入れられると思ったの? そんなの潰し合うだけだと、少し考えればわかるのに……」
最後に見た娘の表情を覚えている。 とても小さな子供だったのだ。 自分達は頼られる存在であったはずだ。
自分の周りにあるものが、全て当然あるものだと思っていた。 それが失われる恐怖を、雪姫は知っている。 自分の持つ力が原因で、歪められていく大人の感情は、 子供の自分には恐怖や悲しみや苦痛しか生まなかった。
「……どうして……」 雪姫の掌に収束される力が、更に強まり吹雪く。
「どうして、あの子の両手を取り合って心を一つに出来なかったのかな、私達」
――その言葉に。 微かにだけど、火王の感情が揺らいだことを、雪姫は確かに感じた。
――しかし。 二つの力のぶつかり合いは、すでに限界に達していた。 これ以上時間をかけるわけにはいかない。 このままでは、この火の世界自体に、修復不可能なダメージを負わせてしまうかもしれない。
事態を収めるには、もうこれしかない、そう雪姫は思った。 手を前にかざす。
「破法、の四」 雪姫の言葉に、空間が軋む。 「魔槍死装雹」
――勝負はその瞬間、ついた。
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