これ見よがしに腕時計をチェックする。22時を回ったところだ。 雰囲気のいい個室のテーブルには、たくさんの空いたグラス。私の手元には飲みかけのモスコーミュール。1杯目だ。 俗に言う、彼女いない暦=年齢って感じの男性達。幹事は友人の麗子の職場のお客様で、ぜひ合コンしたいと言われたそうだ。人数合わせに呼ばれた飲み会とはいえ、テンション下がる。
「私明日早いからそろそろ帰ります」 「え、そうなの?残念」 私の目の前にいる男性だ。メガネをかけたちょっと小太りな人。 「もし良かったら、連絡先聞いてもいい?」 「・・・・・・・」 正直、イヤだ。でもここではっきりイヤという勇気もない私。 手帳を開き、アドレスだけを書いた。一文字抜いたアドレスを。それを切り離し、口元だけ微笑んで彼に手渡した。 回りまわってばれるかもしれないけど、その時はその時。うっかりしたと謝ればいい。そして次の作戦を考える。今までだってそうしてきたし。 「じゃ、今日はありがとうございました!」 コートを手に取り、足早にその場を去る。
「綾!」 店の出口付近で呼び止められた。声の主は麗子だった。 「ごめんね、今日は・・・。彼氏には内緒で来たの?」 「うーん、まあ適当にね」 ちょっとおどけて答える。 「そっか。もうちょっと一緒に飲みたかったけど、またゆっくりね!」 「うん、またね!」
冬の都会は、夏の花火のようにいろんな色で輝いている。 「浩輔と一緒に見たいなー・・・」 彼氏がいるときは、こんな情景にわくわくする。一人ぼっちのときは、切なくて仕方がなくなる。自分は価値のない人間に思える。
携帯を開く。新規メール作成。浩輔。『今から行っても平気?』 すぐにOKの返信が来た。部屋が散らかってると恥ずかしいからと、家に来るときは事前に連絡が欲しいと言われているのだ。
電車のドアにもたれかかりガラスに映った自分を見つめる。 軽く巻いた髪、いつもより濡れた唇、ジェルネイル・・・。 「ちょっと期待しちゃってるじゃん。彼氏持ちのくせにねー」 自分で自分を茶化してみた。
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