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作品名:花束 作者:

第1回   1
これ見よがしに腕時計をチェックする。22時を回ったところだ。
雰囲気のいい個室のテーブルには、たくさんの空いたグラス。私の手元には飲みかけのモスコーミュール。1杯目だ。
俗に言う、彼女いない暦=年齢って感じの男性達。幹事は友人の麗子の職場のお客様で、ぜひ合コンしたいと言われたそうだ。人数合わせに呼ばれた飲み会とはいえ、テンション下がる。

「私明日早いからそろそろ帰ります」
「え、そうなの?残念」
私の目の前にいる男性だ。メガネをかけたちょっと小太りな人。
「もし良かったら、連絡先聞いてもいい?」
「・・・・・・・」
正直、イヤだ。でもここではっきりイヤという勇気もない私。
手帳を開き、アドレスだけを書いた。一文字抜いたアドレスを。それを切り離し、口元だけ微笑んで彼に手渡した。
回りまわってばれるかもしれないけど、その時はその時。うっかりしたと謝ればいい。そして次の作戦を考える。今までだってそうしてきたし。
「じゃ、今日はありがとうございました!」
コートを手に取り、足早にその場を去る。

「綾!」
店の出口付近で呼び止められた。声の主は麗子だった。
「ごめんね、今日は・・・。彼氏には内緒で来たの?」
「うーん、まあ適当にね」
ちょっとおどけて答える。
「そっか。もうちょっと一緒に飲みたかったけど、またゆっくりね!」
「うん、またね!」

冬の都会は、夏の花火のようにいろんな色で輝いている。
「浩輔と一緒に見たいなー・・・」
彼氏がいるときは、こんな情景にわくわくする。一人ぼっちのときは、切なくて仕方がなくなる。自分は価値のない人間に思える。

携帯を開く。新規メール作成。浩輔。『今から行っても平気?』
すぐにOKの返信が来た。部屋が散らかってると恥ずかしいからと、家に来るときは事前に連絡が欲しいと言われているのだ。

電車のドアにもたれかかりガラスに映った自分を見つめる。
軽く巻いた髪、いつもより濡れた唇、ジェルネイル・・・。
「ちょっと期待しちゃってるじゃん。彼氏持ちのくせにねー」
自分で自分を茶化してみた。


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