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作品名:広がる世界 作者:空谷 碑路

第9回   第九話「憂鬱」
また、憂鬱な朝が来た。
月曜日の朝というのは、サラリーマンにとってはかなり辛い。
その上、妙な同居人が増えればなおのことだ。
簡単に朝の支度を済ませ、最後に煙草の火を確認しアパートを出ようとしたときに、ミルを連れていくか考えた。
しかし、当の本人は寝ているし、会社に行ってわめかれるのも面倒なので、持っていかないことにした。
車に乗り込み、アクセルを踏む。
あと5分遅く出ると道は込み合う。
ぎりぎりで出勤するのが嫌なので、会社の始まる一時間前には俺はいつも出勤している。
はやめについても、行けばいってやることはあるから退屈はしないし、何よりも、朝の渋滞ほど嫌なものはない。
急いだっていいことはない。
出勤する時には必ず思ってしまう。
そんな事を思っているうちに会社に着いた。
週末に整理しきれなかった書類を整理し、これから始まる一週間にそなえる。
最近では社内も禁煙になってきたので、時々抜け出しては煙草を吸いに行く。
まぁ、そのおかげで、作業効率は落ちるわけだが、その辺は自分が悪いと自覚をしている。
机には向かっては、煙草を吸いに行く、その繰り返しをしていると、ぽつらぽつらみんなが出勤してくる。
9時になると、好き勝手にできた自分の喫煙時間は取り上げられ、嫌でも目の前の書類に手を出さなくてはいけない。
仕事を始めたうちは、この書類が一体どうやってこの会社や、社会に貢献しているのだろうと、ドキドキしながら書いてたもんだが、10年以上も同じ
事の繰り返しをしていると、そんな事を考えることすら無意味に思えてくる。
所詮は歯車の一部…。
その一部が造った書類が、社会の中を行き交うだけ。
そう考えるようになっていた。
最近では、そんなくだらない事を考えながら、仕事ができるようになり、時間も過ぎていくのが早く感じる。
よくも、わるくも会社での時間を自分の物にしていた。
そして、いつもの様に昼休みがやってきた。
ここのところ、夏の暑さとエアコンの寒さにやられて会社では食欲がない。
歳をとるにつれて、どちらも体にこたえてくる。
1時間、俺は昼食も取らずに、喫煙に時間を費やした。
再度机に向かう。
ミルの事を思い出した。
「あいつ独りで大丈夫かな?」
アパートで恋人や、子供が病気でもしてるような心境に襲われたが、あいつの場合はそんな心配しても無意味だろうと思い、仕事に集中した。
地獄のような月曜日が終わり、俺は帰りの車中にいた。
煙草がなくなったので、コンビニによる。
月曜日は調子が上がらないので、夕飯は外食をする事が多いが、アパートにあいつが居る事を考えると、早く帰らなくてはいけないような気がした。
これが、恋人でも待っているのなら、足取りも軽いのだが・・・。
そんな贅沢も言っていられない。
さっさと買い物を済まし、家路を急ぐ。
ここ数日、独りでいることが少なかったので、気分転換にカーステレオをつけた。
浜田省吾の「八月の歌」が流れてくる。
仕事は違うけれど、共感してしまう事が多い。
ふと、高校時代友達と悪さをしたのを思い出す。
真夜中に河原で、酒飲んで、煙草を吸って、ギターをかき鳴らしてた頃、あの時は本当に怖いものなんてなかった。
今ではみんなどうしているかわからない。
「……ミルが来てから昔の事ばかり思い出すな」
そんな独り言を呟いていると、曲は「こんな夜は I MISS YOU」に変わっていた。

                                つづく


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