くだらない事で午前中を使ってしまった。 気がつくとミルは寝ている。 呑気にもいびきをかきながら…。 いいかげんに、続きを読まないと読みきれないかもしれない。 そう思ったが、肝心の本が寝ているので、俺はどうすればいいか少し悩んだ。 考える事1分…。 どうせ、文句を言われるのなら、起こしても変わらないか。 そう思い俺はミルを起こした。 が、まったく反応がない。 しょうがないので、本人に断りもなく俺は続きを読むことにした。 自分の行ってきた事をあらためて文章で読んでみるとなんだか恥かしい。 多分、日記を後に読んだら、こんな心境になるのかと、思いながら読み続ける。 本の半分以上を読んでやっと高校生に入った。 大半の事は忘れていたけど、こうやって読んでみると色々な事があったと思う。 まだ、そんな昔の事ではないのに。 ミルも言ったけど、本当につまらない人生を送っている。 でも、その中には、今の自分では考えられない行動をとっている話もあった。 友達の為に自分を犠牲にしている話である。 何時の頃からだろうか、自分さえよければいいなんて考えるようになったのは。 俺は本を読むのを休み、煙草を吸った。 無意識に窓の外を見ると、いつもの夕日が街の中に消えていく。 「ずいぶん、俺も変わったんだな。でも、根本的な部分は変わってないか。変わったのは表面だけ」 そんな独り言を呟いた。 あたりも少しずつ薄暗くなってきたので、部屋の電気をつけ続きを読み出した。 心に引っかかっていたものが取れたのだろうか、その後は夕飯も食べる事、ミルの存在も忘れるくらい集中して読んでいた。 しかし、その静寂は破られる。 「秋。煙草が吸いたくなったからくれ」 最初は何がしゃべってるか気がつかず、本を読んでいたが、 「おい!聞こえてんのか、煙草だよ」 「!……なんだ、ミルか。脅かすなよ。今やっと就職するところまでいったんだから、後にしてくれ」 俺がそう言うと、ミルは自分を閉じてしまった。 無言の時間がこの部屋を支配する。 俺はかまわず、ミルを手に取り開こうとするが開かない。 本が唯一できる抵抗だ。 こうなってしまっては、俺もお手上げなので、仕方がなくミルに煙草を差し出した。 すると、いとも簡単に口(本)を明けた。 俺は心の中で引っかかったなと思い、本の続きを読み出した。 「何をするんだ…こうなったら勝負だ!正々堂々俺と闘え!こい!!」 「正々堂々って…。本と闘う奴なんて聞いたことがないぞ」 「じゃあお前が闘えば、本と闘う奴になれる。聞くより先に当の本人になれるぞ。それとも、俺が怖いのか?」 まったく訳のわからない理屈な上、変な事を言う。 まぁ、存在自体が変というか、なんというか…。 「悪かったよ。じゃあ吸ったら続きを読んでもいいか?」 「だめだ!俺にいたずらするなんて100年早い」 100年先には俺は生きてないと思いながら、俺はひたすらミルに謝った。 かなり、間抜けな光景だと思う。 「わかった。読むのも疲れてきたし、風呂入って明日の支度もしなくちゃいけないから、ゆっくりしててくれ」 俺はそう言い時計に目をやると、かなりいい時間になっていたので、ミルに煙草を渡した。 「わかればいい」 ミルの言葉を背に、俺は風呂場に向かった。 風呂に入りながら、さっきミルとのやり取りを思い出した。 「俺にもまだ、あんな子供じみた、やり取りが出来るんだな。何時から俺は、今の自分になってしまったのだろうか?」 そんな見失っていた自分を、少し取り戻したような気がする。
つづく
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