20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:広がる世界 作者:空谷 碑路

第5回   第五話「契約」
「自分の人生を変える?」
俺は、間抜けな声で言った。
今まで以上の、展開だったためかなり驚いた。
それ以上言葉が出ない俺を見かねた本は話を続けた。
「そう、お前の人生を変えてやる」
どうでもいいが、さっきからどうやって外国人ばりのリアクションをしているかは、しゃべるよりも不思議だ。
「本当に変わるんですか?」
また、説教をされるのが嫌なので、早めに言葉を返した。
「くどい!そのために俺は、お前の前にいるんだ。じゃなければ俺は本のままいたぜ」
いっそう、本のままでいてくれたほうが気が楽だった。
「まさか、変えたら魂をもらうとか、なんかいらない事が起るとか、そういう事があるとかいうんじゃ…」
「ない。俺は死神でも、詐欺師でもない。ただの本だ」
本は、そう言葉を返した。
「いやー…ただの本といわれても」
「何処から見ても本だろ?見かけがおかしいか?」
「いや…そうじゃなくて…まぁ、いいか」
「細かい事はきにするな」
本はそう言うと、さっきの話の続きをした。
「じゃあ、簡単に説明するぞ。俺の中に書いてあるお前の今までの人生を読んで、一番帰りたい所に帰ってやり直すんだ。期限は1週間。それまでに全部読んで決めるんだな。特に注意する点は、書いてある字が濃いところは、一番お
前の心の中で引っかかっている事。それを参考にしてみれば早いが…」
なぜか本は、言葉をとめた。
どうやら、困っているようだ。
俺は気になり質問をしようとしたが、本は話を続けた。
「うーん。お前の場合はまだ30年しか生きてないのに、最後のページまでうまってるし、全部濃い字だな。まぁなんとかなるか。読むのは俺じゃなし」
俺の人生って一体…。
「とにかく、よろしくな。俺は本のミルだ」
自分で本という自覚はあるらしい。
「えーと。俺は音浦 秋」(おとうら みのる)
本に、自己紹介をするのは少々ばかばかしいが、話の流れとしては自然なのだろう。
「じゃあ、最初のページに名前を書いてくれ」
そう言うとミルは、自分で表紙をめくった。
さっきからずいぶん器用な事をするけど、何処までこの本はできるのだろうかと、考えてしまう。
でも、一番肝心な事を聞いてないような気がするが、俺は言われるまま本にサインをした。
「よし。これで契約終了。まぁ、後は時間がないから中を読んで、帰りたい場所を決めてくれ」
正直、あまり中身は読みたくなかった。
さっき、本がいったけど、俺の人生あまりいいことはなかったし、はほとんど思い出したくないものばかりだから。
でも、変われるのなら、変わりたい。
そう思い、俺は本を手にした。
これから1週間、本との奇妙な生活が始まる。

つづく


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 2649