その本は、「マイ・ブック」と書かれていた。 俺は、その本を手にとりながら、 「あぁ…何も書いてないページに、自分の好きな事を書く本か」 そう、心で呟きながら本を手にした。 ページを適当にめくると、何も書いていない。 こんな、くだらない本を、誰が買うのだろうか? そう思ったが、なんとなく気になり、俺は、レジにその本を持って行った。 車の助手席に本を放り投げ、家路を急いだ。 車中、嫌な事を思い出す…。 仕事から帰る途中は、嫌な事思い出して帰ることが多い。 自分でも、気がつかないうちに、こんな習慣が付いた。 その、感情の起伏により、俺の車は減速したり、加速したりする。 後ろの車からしてみれば、いい迷惑かもしれないが、俺の心の中を知るよしもない。 そんな、くだらない事を考えていると、アパートに着いた。 今朝吸った煙草の灰を捨て、テレビを付けながら、窓を開ける。 まだ、遠くのほうには、夕日が見える。 その、夕日を見ながら煙草に火を付け、呆然と眺める。 「昔は、こうやって夕日をよく眺めていたっけ。いつの頃からだろう?夕日を眺めるのが嫌になったのは…」 そんな、独り言を呟きながら、俺は夕飯の支度を始めた。 なべの中に、おわん2杯分の水を入れ、沸騰するのを待ちながら、米の量を計り炊く。 なべの中の水はすぐにお湯に変わってしまうので、出汁を適当に入れ、味噌を溶かす。 具は、冷蔵庫にある物を放り投げる。 10年もこんな事をやっていれば、嫌でも手際がよくなる。 そんな事をしていたら、今日買ってきた「マイ・ブック」の事を思い出した。 味噌汁のできを確認すると、部屋に戻りながら紙袋からマイ・ブックを取り出した。 煙草を吸いながらページをめくる。 やはり、何も書いてない…。 「まぁ、当たり前か…」 恥かしい独り言を呟く。 煙草を消して本を放り投げた。 そろそろ、おかずを作らなくちゃいけないと思ったが、なんとなく本を手にとってみた。 ふと、昔の事を思い出す。 「そういえば、昔は本をよく読んでたな。いつから読まなくなったんだ?」 表紙をめくって、数ページめくると、何も書かれていないはずの本なのに、何かが書かれていた。
つづく
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