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作品名:広がる世界 作者:空谷 碑路

第2回   第弐話「異変」
その本は、「マイ・ブック」と書かれていた。
俺は、その本を手にとりながら、
「あぁ…何も書いてないページに、自分の好きな事を書く本か」
そう、心で呟きながら本を手にした。
ページを適当にめくると、何も書いていない。
こんな、くだらない本を、誰が買うのだろうか?
そう思ったが、なんとなく気になり、俺は、レジにその本を持って行った。
車の助手席に本を放り投げ、家路を急いだ。
車中、嫌な事を思い出す…。
仕事から帰る途中は、嫌な事思い出して帰ることが多い。
自分でも、気がつかないうちに、こんな習慣が付いた。
その、感情の起伏により、俺の車は減速したり、加速したりする。
後ろの車からしてみれば、いい迷惑かもしれないが、俺の心の中を知るよしもない。
そんな、くだらない事を考えていると、アパートに着いた。
今朝吸った煙草の灰を捨て、テレビを付けながら、窓を開ける。
まだ、遠くのほうには、夕日が見える。
その、夕日を見ながら煙草に火を付け、呆然と眺める。
「昔は、こうやって夕日をよく眺めていたっけ。いつの頃からだろう?夕日を眺めるのが嫌になったのは…」
そんな、独り言を呟きながら、俺は夕飯の支度を始めた。
なべの中に、おわん2杯分の水を入れ、沸騰するのを待ちながら、米の量を計り炊く。
なべの中の水はすぐにお湯に変わってしまうので、出汁を適当に入れ、味噌を溶かす。
具は、冷蔵庫にある物を放り投げる。
10年もこんな事をやっていれば、嫌でも手際がよくなる。
そんな事をしていたら、今日買ってきた「マイ・ブック」の事を思い出した。
味噌汁のできを確認すると、部屋に戻りながら紙袋からマイ・ブックを取り出した。
煙草を吸いながらページをめくる。
やはり、何も書いてない…。
「まぁ、当たり前か…」
恥かしい独り言を呟く。
煙草を消して本を放り投げた。
そろそろ、おかずを作らなくちゃいけないと思ったが、なんとなく本を手にとってみた。
ふと、昔の事を思い出す。
「そういえば、昔は本をよく読んでたな。いつから読まなくなったんだ?」
表紙をめくって、数ページめくると、何も書かれていないはずの本なのに、何かが書かれていた。

つづく


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