「どこにも戻らない」 それが俺の答えだった。 ミルは、拍子抜けした様子だったが、すぐに気を取り直してこういってきた。 「うーん。考えればこの結論だったかもしれない。普通だったら、読んでる最中に今後自分がどうなるかって聞くもんな。秋の場合は一言も聞いてこなかっ た。でも、お前、正直すぎるぞ」 「馬鹿正直かもしれないけど、なんとなくわかったんだ」 「ん?なにが」 「昔の自分があって、今の自分があるってことさ」 「昔の自分があって、今の自分がある?」 「そう、どんなにいやな事だらけの人生でも、気持ちの持ちようで変わるし、どこの時に帰っても、根本的に自分が変わらなくちゃ何も変わらない。こうやって毎日ミルと暮らしてて、ふとしたときに昔の事を思い出しては、本で読んでた時と、今の自分が違うような気がしたんだ」 「違うというと?」 「言葉ではうまくいえないけど、うーん、なんだろう…そうだな、社会にでてから臆病になっていたのかな?子供の頃から学生時代までは、物事があってようが、間違っていようが、自分が思ったように進んでいた。でも、さっきも言ったけど、社会にでたらそれができなくなっていた。ミルに言われた事でわかったんだ」 「俺は何か言ったか?」 「ほら、会社はつまらないところだって言った時に、なんで面白くしないんだって言ったろ」 「そりゃあそうだ、生きてたって、つまらない人生送ってもしょうがないじゃないか」 「諦めていたんだよ、今までの自分は。それで、昔あったいやな事のせいにして、逃げて、楽に生きてたんだ。それに気がついた」 「でも、それを差し引いても過去に帰ってみる価値はあるんじゃないか。気の持ちようだけで、どうにでもならないことだってあると思うが」 「それも考えたけど、悪い意味じゃなくて、どうでもよくなった。時には考えなくちゃいけないけど、考えてもどうにもならないときは、どうにもならないからね」 「なるほど・・・。そこまで言うのならしょうがないか。なら俺は帰るぜ」 「ちょっとまってくれ」 「なんだよ、未練がましい。やっぱり今の決断に後悔しているのか」 「そうじゃない。ひとつ聞きたいことがある」 「なんだ?」 「なんで俺のところに来たんだ?」 「なんでだろう……気がついたら来てたんだよな」 「お前らしい答えだな」 「じゃ、俺は帰るからな」 そういい残すとミルは俺の前からあっけなく消えた。 「……ありがとう」
それからの俺は、相変わらずの日々を送っていた。 やっぱり自分が考えているほど、自分を変えるのは簡単ではなかった。 でも、少しずつでもいい、ひとつひとつでもいい。 「自分自身を変えることができるのは自分だから」 そう新しく買ってきた、マイ・ブックの最初のページに書き込んだ。
完
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