気分も晴れ、今は何でもできるような気がする。 実際、子供の頃から学生時代まで、見るより先に行動してた。 でも、社会人になって、色々な責任が肩にのしかかり、新しい事へ挑戦する意欲が、なくなってきてたような気がする。 別に社会のせいではないと思うけど、自分自身が勝手にレールをしき、その上に乗って歩んでいけば楽だと知ってしまったんだ。 気がつかないうちに。 とにかく、明後日までは自由だ。 後の事は、その時に考えればいい。 まず初めに俺がしたのは、昨日ミルが焦がしたカーペットの交換と、部屋の掃除だった。 料理は好きだけど、掃除は今まで苦手で、重い腰が上がらないとなかなかしなかった。 好きな事は今まで以上に好きになって、嫌いな事は避けるのではなく、うまく付き合っていこう。 そう考えたら、掃除も苦ではなくなった。 ぶつぶつ言いいながらも、ミルも手伝ってくれている。 季節外れの大掃除も夕方には終わり、あらためて部屋に入ってみると、自分の部屋じゃないように見えた。 窓を全開に明け、夕日を眺める。 子供の頃見た夕日と、同じ感覚がした。 自分とミルの煙草に火を付け、沈むまで黙って夕日を眺めた。 「ミル、本の続きを読んでいいか?」 窓を閉めながら俺は言った。 「いいけど。せっかく気分がよくなったのに、これ読んでまた気持ちを落ち込ませなくても、いいんじゃないか」 「まぁ、それもそうかもしれないけど、今、読まなくちゃいけない」 「本人が、そう言うならいいけど」 ミルは自分の吸っていた煙草を消し、読んだところまでのページを開いてくれた。 「ありがとう」 俺はそう言うと、自分の物語の続きを読み始めた。 今までは読んでいると、辛かったり、無理やり読んだりしてたけど、今はそんな感じはしない。 人間とは不思議なもので、気の持ちようでいやな事でも、自然と受け入れる事ができる。 それだけ、自分を見つめる余裕ができたのかもしれない。 考えれば、ミルが来るまでは、心の余裕なんてなかった。 それどころか、無理やり余裕をつくったり、現実から逃げる事で、自分を安定させていたのかもしれない。 そんな自分自身に、疲れていた事も気付かずに…。 1時間ほどで、本は読み終わった。 自分が何をしてきて、これから何をすればいいのか、わかってきたような気がする。 気がするだけで、これから今まで感じ取った事を、実行するのは難しいかもしれないけど、今の自分ならできそうな気がした。 読み終わった事をミルに言おうとしたが、寝てしまったようだ。 「色々小さい体で今日は手伝ってくれたからな」 そう言うと俺も、眠くなってきたので、寝る事にした。 次の日…。 気がつくと、昼になっていた。 一瞬、遅刻か?!と、思ったが、昨日有休休暇を出した事を思い出し、煙草に手を出した。 煙草に火を付け、一服するとミルがいないことに気がついた。 また、テレビでも見てるのかと思い、隣の部屋に行く。 案の定テレビを見ていた。 しかも、情報番組を。 「まったく、相変わらずだな」 そう言うと俺は、ミルに煙草を渡し火を付けた。 「ふぅー。うまいな」 そして、自分の煙草にも火を付けた。 無言のまま時間が過ぎていく。 ただ動いているのは、テレビの中の人と、煙草の煙だけだ。 そんな緩やかな時間が流れる中、ふと俺は思った。 1週間の期日は明日、その後ミルはどうするんだ? 最近はあまりにも普通にいすぎて、考えた事もなかったが、いずれ、本人から言ってくるだろうと思い、俺は考えるのをやめ、今過ぎる時間を楽しんだ。 しかし、その疑問はすぐに解決された。 「読み終わったか?」 「なんとか」 「じゃ、約束通り、やり直したい時間に戻してやる。と、その前に、わかっていると思うが、やり直したところから帰ってきたら違う人生が始まる。そして、その時には俺はもういない」 「あぁ。わかってるよ」 「簡単に言うな。まぁ、煙草がうまかったぜ」 「俺も楽しかったよ」 「じゃあ音浦 秋に聞くが、戻りたい時間はいつだ?」
つづく
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