押入れの中に、ひっそりと置いてある書物。 まだ、文字も読めないのに、文章の途中に置いてある挿絵を見ながら、色々な想像をはたらかせて物語を追う。 冒険物を見ては、胸をドキドキさせ、恋愛物を見ては、首をかしげてみた幼き日。 やがて、文字も読めるようになり、少年は物語の世界を広げていった。 将来の夢なんてものを、もつようになった。 物語に出てくる主人公達に、自分を重ねて。 物語の中が、少年の世界だった。 中学生になると、別の世界が心に広がった。 初めて、人を好きになり、淡い恋心を抱いた。 しかし、初恋というのは、物語のようにはいかない。 そういうものである…。 高校に入ると、少々悪い事を憶え始めた。 酒、煙草、夜中の外出。 悪友と共にする時間が、少年の世界をまたひとつ広げた。 このまま、時間が続くと思った。 だが、そんな日々も、長くは続かず、大人にならなくてはいけなくなった。 社会に出て、今までとは違う世界になり、苦痛な時間が流れるようになる。 立ち止まり、考える時間を与えてくれないほど、加速を続ける。 この、流れに乗れず、ただ押し流される日々。 「あの頃に帰りたい…」 そう思った時、1冊の本とであった。
つづく
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