「おはよう。」
「・・・」
夢一が家をでたときちょうど琴美も出てきて挨拶をしてきた。そう彼らは真向いの家同士で住んでいるのだ。タイミングよく二人が出かければこうして顔を見合わせることになるわけである。
「随分と嫌そうな顔してるわね。」
「そうか?」
「そう」
琴美はふくれっ面をした。二人は並んで歩いた。
「もう囲碁の話はしないって。それよりも下林くんの脚のほうが気になる。」
琴美は夢一の脚をチラっと見た。まだまだ松葉杖に使い慣れていないのでぎこちない。
「大丈夫だっての。まだ松葉杖使ったばかりで慣れてないけどそのうち慣れてくるって。そして慣れる頃には松葉杖はいらなくなるだろうし。」
「そうだろうけど。でもほんとに脚の怪我って転んだだけなの?そうには見えないけど。」
「それは・・・」
夢一はためらった。やはりこの怪我の原因など話したくなかった。話すとまたあの怪我したときのことを思い出してしまう。
「転んだだけだ・・・それだけだ。それ以上何もない。ただ俺がバカだっただけだ。それだけのことだ。」
夢一は平気そうに話したが心はそんなわけではなかった。動揺しそうな心を抑えるのに必死だった。
「それだけのことか・・・。」
琴美は腑に落ちないといった表情をした。琴美にはそれが本当には思えなかったのだ。
学校に着くとグラウンドでは野球部の朝練をやっていた。
「頑張ってますね〜」
と琴美が言った。 ちょうど守備練習を時間のようである。みんな声をあげ、ボールを必死に追いかけていた。夢一もちょっと前までその中で一緒にボールを追いかけていたのだ。だが膝の怪我でそれができなくなった。
「この高校の野球部ってけっこう強いんだってね。今年の夏は惜しくも甲子園出れなかったけど、でも今年は強い一年生が入ったから来年にはさらに強力になるだろうって。甲子園も確実だとか。すごいよね。
どんな人が入ったんだろう。」
「さぁ」
「私高校野球も少し好き。何か男と男の勝負って感じで!毎年甲子園見てるよ。」
「ふ〜ん」
夢一は琴美の言葉を聞き流しながら守備練習しているところから少し離れたところに目がいった。そこでは二人の投手が投球練習していた。夢一はよく知っている二人である。一人は3年生投手で右の本格派である。ストレートでぐいぐい押していくタイプのピッチャーである。もう一人は2年生で来年のエース候補だったピッチャーである。「だった」というのは今年夢一が入ったからである。彼が入ったことによりこの2年生 投手は来年も控え投手になる予定であったが夢一の怪我により来年のエース候補となった左のサイドスロー投手である。秋の大会に向けてお互い熱が入っていた。夢一はそんな中にいられないことが歯がゆかった。
「何かあんまり興味ないみたい。野球嫌い?」
「違う!!」
「えっ・・・」
「違う・・・くそっ。」
夢一はそれだけ言い残しさっさと校内に入って行った。夢一の様子が変わったことに琴美はさらに不信に思った。
「絶対何かありそう。」
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