授業は退屈そのものだった。元々野球ばかりやっていた夢一にとって勉強は苦痛でしかなかった。夢一は琴美のほうを見た。真面目に勉強している。
「俺にはとても真似できん・・・。」
夢一はため息をついた。そして机に突っ伏して眠りについた。
そんなこんなで授業の終わりのチャイムが鳴った。
「やっと終わった。さて部活だ。」
夢一は立ち上がろうとしたが、ハッとして、また座りなおした。もう野球ができる身体じゃないことに気付いたからだ。部活道具を持って教室を出る人たちを遠くから見て、自分の脚が恨めしくなった。
「帰ろう・・・。」
夢一はバックを肩に担ぎ、松葉杖でとぼとぼと歩き始めた。
「しょぼくれた顔してるな。」
加藤だった。彼は夢一とは別のクラスである。
「なんだお前か。」
夢一は興味なさそうに加藤の前を素通りした。
「なんだよ。病院で言ったことまだ怒ってるのか?」
「別にもう怒っちゃいないさ。てか怒ってないし。今は話したい気分じゃないだけだ。」
「なら良いけど。そこまで一緒に帰ろうぜ。」
「お前人の話聞いてるのか・・・?」
そうして加藤は陽気に、夢一はつまらなさそうにして一緒に帰った。加藤の家は学校から自転車で10分くらいの距離があり、とても近かった。夢一とも帰る道は途中で一緒なためこうしてたまに一緒に帰ることがある。
「そういえばお前部活どうしたんだ?」
「今日は休みだ。」
加藤の入っている部活は演劇部である。
「もうすぐで文化祭だってのに休みで大丈夫なのか?」
「大丈夫なんじゃない?」
加藤はいつもこんな調子だった。いつでも適当なのである。この学校に決めたのも夢一が入るからというのとあと家から近いからという理由からだった。今入っている演劇部も何となく目に入ったからとのことだった。元々演劇など興味もなかったはずなのに今ではそれなりに楽しんでいるみたいである。 二人は坂を下って行った。
「おや?あれは・・・」
加藤は坂を下りきった先のバス停のほうに目を向けた。
「あれって夢一のクラスに来た転校生じゃないのか?」
「どれ?」
夢一もそちらのほうに目を向けた。見ると並んでいる何人かのちょうど真ん中あたりに髪の毛をポニーテールに束ねた流稜高校の制服を着た人物がいた。
「たしかに優坂さんっぽいな。」
「かわいい転校生が来たってことでけっこう有名なんだぜ」
「ふ〜ん。」
「夢一と同じバスじゃないか?」
「そうみたいだな。」
加藤はニヤリと笑い、夢一の背中を押した。
「何する!」
夢一はよろけながら何とか体勢を立て直し言った。
「同じバスなんだから一緒に帰ったら良いんじゃないのかなって思ってさ。」
「なんだよそれ。別に良いから。」
「おーい!」
「聞いてないし・・・。」
加藤は誰彼構わず琴美に向かって叫び琴美のところへ走って行った。。琴美も夢一の存在に気づいたのか笑顔を見せた。他の並んでいる人たちは不振そうな顔をしていたが加藤は別に気にしていなかった。
「優坂さん・・・だよね。実は頼みたいことがあるんだけど。」
「頼みたいこと?えぇ・・・良いけど。」
「今来る夢一を送ってってやってくれないかなって思ってさ。」
夢一は早く二人のところにたどり着こうと足を速めるが松葉杖で思うように進まずまだ二人の会話が届くところまでたどり着いていない。
「良いけど・・・帰る方向はこっちなの?」
「そそ。あいつ松葉杖だから思うように前に進めないだろ?だから少し手伝ってやってよ。俺は自転車だからさ。」
と駐輪場のほうに指を向けた。
「そうなんだ。わかった。」
琴美はあっさり承諾した。
そんなやりとりが終わったころになってやっと夢一は二人のところに辿り着いた。
「さっさと行きやがって・・・」
夢一は息を切らしながら話した。
「良いじゃん。ちょっと話したいことがあったからさ。おっとバス来たみたいだ。じゃあ俺は自転車だから。後は優坂さんと手を貸してくれるみたいだからさ。」
「え?」
夢一はきょとんとした顔をした。
「よろしくね。」
琴美は笑顔である。
「何話してたの?」
夢一は現状を理解できなかった。
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