夢一の渾身のストレートは狙い通りバッターの膝元へといった。しかしバッターもそれを読んでおり、ややオープン気味に足を広げ来たボールに合わせバットを鋭く振りぬいた。渇いた金属音が球場全体に鳴り響くと共に夢一はその場に倒れこんでしまった。 ボールは夢一の足元を転々とし、打ったバッターは一塁へと向かう。夢一は転々としているボールを倒れながらも掴み、そして身体を半分起こしながら一塁へ投げた。上半身だけで投じたボールだけに力が弱々しく、ファーストにボールが到達するのがやっとだった。当然打ったバッターのほうが早く一塁を駆け抜けたため記録はヒットとなり夢一の完全試合はここで終わった。しかしそれと同時に夢一にアクシデントが発生した。
「くっ・・・」
夢一は歯を食いしばりながら左足の膝を抑えていた。そう打ったボールは夢一の左足の膝を直撃したのだ。
「下林!!」
「大丈夫か!!」
監督をはじめ、内野陣、外野陣、そしてベンチの人たちチームメイト全員が夢一の元に駆け寄った。 相手チームの人々も心配そうにその様子を見守っている。そして何より打ったバッターが一塁ベース上で青ざめた表情をしながら夢一を見ていた。
「タンカだ!タンカを頼む!!」
チームメイトの一人がそう叫んだ。その間夢一は痛みを堪え切れずずっと左膝を抑え身動きすら取れなかった。 その後すぐにタンカが運ばれそのまま病院へ。検査の結果は半月板損傷とボールが当たったときに無理に避けようとして捻った左足の足首のねん挫だった。捻挫のほうは2週間安静にしていればすぐ良くなるものであるが、ボールが直撃した左膝のほうはそう簡単にはいかなった。損傷も激しく即手術となった。夢一がこのことを知らされたのは手術後数時間経ってからのことだった。
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