今日は土曜日。学校も休みなため普通の高校生ならここは喜ぶところなのだが、夢一はそうではなかった。何せ今日は前から琴美と約束をしていた碁会所へと行く日だからだ。たしかに最近は夢一自身も琴美以外で誰かと対局してみたいと思ってはいたが、それでも自分ではまだまだ人と打てるくらいの実力じゃないと思っているためあまり行く気にはなっていないのだ。
「めんどくさ・・・」
夢一はぶつぶつ文句を言いながらそれでも行く準備を着々と進めていた。下から話し声が聞こえる。一人は母親。そしてもう一人は・・・
「琴美か・・・もう来たのかよ。」
そして階段を上る音がし、ノックもせず夢一の部屋へと入ってきた。案の定琴美だった。
「おはようムイくん。今日は良い天気!絶好のお出かけ日和だね!!」
「お前は朝っぱらから元気だな・・・まだ朝の9時だぞ。そしてノックくらいしろ。」
「良いじゃん。朝からエッチな本でも見てたの?」
「違うし!・・・ったく朝っぱらから。」
「気にしないの。それより早く行きましょ。」
「なんだ。もう行くのか?」
「もちろん。ちょっと遠いからね。それになんだかんだでこの町のことよく知らないから散歩がてらに色々知りたいなって。」
「どこにあるんだ?」
「たしか新沢巳駅ってところ?」
「新沢巳駅・・・」
夢一は一瞬固まった。
「どうしたのムイくん?」
「お前新沢巳駅まで歩いて行くのか?」
「もちろん!」
琴美は大きく頷いた。
「ふっざけんな!」
夢一は急に大きな声を出した。
「そこまで歩いてどれくらいかかると思ってるんだ!1時間くらい歩くんだぞ。1時間!電車だったらあっという間のところを・・・何でわざわざ歩いて行かなきゃいけないんだ!」
「だから言ったじゃない。この町のことまだよくわからないから散歩を兼ねて色々知りたいなって。言うなれば探検みたいなもの。」
「そんなのお前だけじゃないか。」
「細かいことは気にせずさ。とりあえず早く行こうよ。外はすごく天気良いんだから!」
と琴美は外を指差した。
「わかったわかった。」
夢一は大きくため息をした。
「行くから。歩いて行くから。だからもう少し待ってくれ。準備ってものがあるんだから。外で待っててくれ。」
「ありがとう〜。やっぱりムイくんは優しいなぁ〜。」
と琴美は小躍りしながら部屋をそそくさを出て行った。
「・・・疲れる。なんて疲れるんだ。」
夢一は苦笑いしながらベッドの上に横になった。
準備といっても特に何もない。ただちょっとこの疲れた身体を休めたかっただけなのだ。
「琴美といると疲れることがたくさんだ・・・だけど・・・」
夢一は起き上がった。
「俺って意外にお人よしなんだなぁ・・・」
夢一はそうつぶやき部屋を後にした。
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